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口腔ケア 災害時も忘れずに 入れ歯の手入れ、歯磨き大事 「誤嚥性肺炎」の危険性も

 地震や洪水などで被災した際に気を付けたいのが「口腔(こうくう)ケア」だ。被災直後は人命救助が最優先となる上、避難所生活では水が不足するなどして、入れ歯の手入れや歯磨きがおろそかになりがち。しかし、口の中で細菌が増殖すると「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」となる危険が高まり、とりわけ体力が落ちた高齢者は命にかかわりかねない。国内の災害現場の実情と、手軽なケア方法などを専門家に聞いた。

 「被災後の水不足で(避難所などで暮らす)高齢者の中には1日に1回も歯磨きをしない人もいました」

 2016年の熊本地震直後、被害の大きかった同県益城町などを、医療支援のために訪れた東京医科歯科大の中久木(なかくき)康一助教(口腔外科)は振り返る。

 誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、唾液など、本来は食道から胃に運ばれるものが、口の中の細菌と一緒に誤って気管から肺に入ることで発症する。肺炎は日本人の三大死因(厚生労働省統計、16年)のひとつ。同省によると、肺炎の中でも「誤嚥性」は、70歳以上の死因の8割以上を占める。身近で、危険な病気だ。

 中久木助教によると、口の中には歯周病原菌など数百種類の細菌が存在するという。普段は唾液の抗菌作用で細菌数は一定数に抑えられているが、加齢で唾液量が減って口の中が乾いたり、口腔ケアが不十分だったりすると細菌が増えやすくなる。

 災害時は人命救助や避難、食料や飲み物の供給が優先され、支援物資でも歯ブラシなどは後回しになることがある。歯磨きや入れ歯の清掃などの口腔ケアができずに時間がたち、その間に口の中で爆発的に細菌が増え、誤嚥性肺炎の危険性を急速に高めるという。

 さらに「災害時は体力の低下やストレスなどによる免疫力低下で、発症リスクはさらに高まります」(中久木助教)と指摘する。

 「(1995年の)阪神大震災が、災害時の口腔ケアを見直す契機になりました」と話すのは、自身も被災した歯科医で神戸常盤(ときわ)大短期大学部の足立了平教授(口腔保健学)だ。

 消防庁によると、同震災での死者6434人のうち、倒壊した家屋の下敷きなどによる「直接死」は約5500人。一方、避難生活で体調を崩すなどして亡くなった「震災関連死」は約900人で、このうち肺炎が最多の24%を占め、大半が誤嚥性肺炎だった。

 震災前、口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連は、歯科医の間ではあまり知られていなかったという。震災後、口腔衛生に詳しい専門家らがケアの重要性を論文で発表。さらに、震災関連死の死因の内訳が判明したことで、「口腔ケアの不足による細菌の増加と、誤嚥性肺炎の発症の関連がはっきりした。『(阪神大震災で)口の中を清潔に保っていたら誤嚥性肺炎の4割は防げた』という推計もあります」と、足立教授は話す。

 この教訓から、04年の新潟中越地震では被災者の口腔ケアが徹底され、誤嚥性肺炎による死者は震災関連死の約15%に低下した。しかし11年の東日本大震災では阪神大震災と同程度の発症率になったとされる。

 想定を大きく上回る災害で医療スタッフが不足し、治療や介護だけで精いっぱいとなった結果、「口腔ケアが省かれがちになったことも原因ではないか」(足立教授)と分析する。実際、震災後の11年4月上旬に岩手県陸前高田市などを訪れた足立教授は「入れ歯を外すのをためらい、一度も手入れしていない高齢者が多かった」と指摘する。

 国も口腔ケアを重視し始めた。同年6月、被災者の健康管理に関する厚労省のガイドラインに、「高齢者は特に誤嚥性肺炎を起こしやすい」と、口腔衛生について注意を呼びかける文言が加えられた。「災害時の口腔ケアについて国が周知したのは画期的」(中久木助教)だ。

 生死とは、関係が薄く見られがちな口の健康。「口のケアは命に直結するのです」と足立教授は強調している。(くらし報道部 末角仁)

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