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再犯防止、刑より支援「治療的司法」で認知症や依存症を更生

 認知症や依存症によって窃盗などの犯罪を繰り返す被告の刑事裁判で、弁護士と医療福祉関係者が連携して被告の支援計画を示し、執行猶予付き判決を求める動きが広がっている。刑務所の再入所率が6割に迫る中、刑罰ではなく、社会生活上の福祉的支援や治療によって被告の抱える問題を解決し、再犯防止を図る狙い。「治療的司法」と呼ばれる取り組みで、道内でも活動が始まっているが、支援や治療の受け皿となる施設の充実など課題も多い。

■執行猶予判決

 「これは極めて異例の判断。通院を続けるなど法廷での約束を守ってください」。札幌高裁の登石郁朗(といしいくろう)裁判長は5月、執行猶予中に再び万引した札幌市の認知障害の女性(86)の控訴審で、弁護側の支援計画を評価し、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。執行猶予中の再犯者に対し、実刑が回避されるのは珍しい。

 女性は夫と2人暮らし。過去に万引で罰金刑の判決を複数回受けたが、治療や福祉的支援は受けていなかった。昨年9月に食料品を盗み、一審札幌簡裁で今年2月、懲役10カ月の実刑判決を言い渡された。

 控訴審から担当した西村武彦弁護士(札幌)は、女性を精神科に通院させ、福祉施設で勤務歴の長い札幌市の小関あつ子さん(66)に協力を依頼した。小関さんは女性と面談を重ね、要介護認定の申請や介護施設への通所を支援。買い物に付き添い、道北に住む女性の長男と情報共有を図った。小関さんは「女性は夫以外と関わりがなく、刑務所に入っても出所後に再び孤立し、万引してしまう可能性があった」と振り返る。

 控訴審では小関さんが更生支援計画書をまとめ、女性の長男も出廷し同居を約束した。西村弁護士は「再犯防止のためには、被告に不足している部分を補うことが大切だ」と指摘する。

■再入所者6割

 犯罪白書によると、2016年の全国の受刑者の59・5%が再入所者だった。12年に出所したうち、窃盗罪で44・6%、覚せい剤取締法違反罪で48・9%が5年以内に再入所している。

 再入所率の高止まりを受け、13年に東京の弁護士有志や医療福祉関係者が一般社団法人を設立。社会福祉士らが被告と面会し、必要な支援の助言や、支援計画書の作成などを行っている。14年には大阪弁護士会が大阪社会福祉士会と連携協定を締結し、同様の活動を展開。札幌弁護士会も今後、道社会福祉士会と協定を結びたい意向だ。

 大阪弁護士会の西谷裕子弁護士は14年、執行猶予中に再び覚醒剤を使用・所持した30代男性の公判を担当。男性は保釈中に入院し薬物依存治療を受け、再び一審で執行猶予付き判決を受けた。検察側が控訴し実刑判決となったが、男性は出所後も支援計画に沿って治療を受けたり当事者グループに参加したりし、現在は就職して薬物依存の講演も行う。西谷弁護士は「本人に治療したいという強い意志があり、各機関が連携し段階に応じた治療をすることができた」と振り返る。

 一方、当事者の受け皿となる福祉施設や専門医、依存症患者支援団体の充実、社会福祉士の確保なども課題だ。社会生活の中で更生を図るためには、捜査機関や地域社会の理解も欠かせない。成城大(東京)の研究調査機関「治療的司法研究センター」の指宿信(いぶすきまこと)センター長は「刑罰だけで再犯防止は図れない。更生に向け、公的な支援と民間の力を組み合わせた継続的な支援が必要だ」と指摘する。(松下文音)

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