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<訪問>「蹴爪(ボラン)」を書いた 水原涼(みずはら・りょう)さん

旅先の島で着想 少年の成長物語

 東南アジアとヨーロッパの島を舞台にした中編2作を収録した。日本人は登場せず、その土地に生きる人々が物語を動かす。まるで翻訳小説のよう。なぜ日本を軸に書かなかったのか。「僕の国籍に関係なく、普遍性のある物語を意識したのです」。そう応える声には柔らかさと落ち着きがあり、テレビのナレーターを連想させる。

 北海沿岸の港町で暮らすクレイグの回想録「クイーンズ・ロード・フィールド」は、地元サッカーチームの応援に熱狂する少年少女の切ない青春物語だ。彼らはそれぞれ苦悩を抱えている。重い障害のある妹の世話に明け暮れていたり、街で数少ない黒人であったり。悩みがないクレイグは仲間たちと不幸のバランスを取るために、兄からひどい暴力を受けているとうそをつく。

 「傷をなめ合う少年たちをモチーフに書いてみたかったんです」。ただ、クレイグ以外の3人のつらい日常をつづったところで「オレはこの小説の最後まで4人分の不幸を書き続けるのか」と嫌気が差し、トーンを変えたことが功を奏した。

 ささいな出来事に小説の種を見つける。「クイーンズ―」は、サッカーを観戦中に全裸の男が競技場を駆け回るのを見て着想した。表題作の「蹴爪」は旅先の島で見つけた空き地から想像を膨らませ、闘鶏に燃える男たちや少年の成長を描いた。

 北大在学中の2011年に「甘露」で文学界新人賞を受賞しデビューした。この年の芥川賞候補にもなり注目されたが、その後4年半は作品をボツにされ続け「何を書けばいいか分からず、危機感があった」と振り返る。環境を変えるため早稲田大学大学院に進学。小説の批評的な読み方や書き方を学び、効果的な表現や文体を意識するようになった。

 「蹴爪」は初の単行本で「やっとここまで来たか…」と感慨深い。ここ数年、文芸誌に発表した作品には超高齢女性や妊婦が登場するが、「自分とかけ離れた境遇の人を書くのは疲れる」と苦笑。おのずと少年を題材にすることが増えた。

 神戸市生まれの28歳。3歳から高校卒業までを鳥取で過ごした。砂丘ばかり連想される故郷には「書かれていないものがたくさんある」と感じている。最近では、文芸誌「文芸」夏号で「少年たち」を発表した。鳥取東部の閉鎖的な街で海側と山側の不良少年たちが抗争を繰り広げる物語だ。鳥取の土着性をしっかり書きつつ、海外にも目を向ける。「何でも書ける」。7年の文章修業が実を結びつつある。

東京報道 上田貴子

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