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<書評>送り火

高橋弘希著

社会に重ねた陰湿ないじめ
評 横尾和博(文芸評論家)

 著者は過去3回芥川賞の候補にのぼった。今回本書での受賞は順当だといえるが、著者の実力ならもっと早い受賞も可能だった。その実力とは精微な描写力のことであり、デビュー作『指の骨』で、太平洋戦争下での南島の野戦病院の様子を描いた筆は読者を驚嘆させた。

 本書も同様、風景や心理、習俗を細かく描写していく。全編をとおして流れている基調は、閉鎖空間のなかでの不穏と暴力である。

 物語は父親の転勤のたびに転校を繰り返す中学生の歩(あゆむ)が主人公。舞台は青森県平川市。同級生は12名しかいない地方の小規模校に移った彼だが、同級生にうまく溶け込む術(すべ)を知っている。男子グループのリーダーは晃。仲間を威圧し稔という少年に異常なまでの暴力を振るう。このあたりまで読むと、少年グループの日常を描いた成長物語とのイメージがわいてくるのだが、だんだん不穏さが増す不気味な展開となる。少年たちは花札に興じて、何か事を起こすときの順番も花札でくじを引く。しかし歩は晃が花札を巧妙に操り不正をしていることに気づく。ある日、卒業生の先輩たちに呼び出された歩たちは暴力の洗礼を受け、物語は悲惨な結末を迎える。

 歩は転校慣れで世渡りがうまく、適度な距離感で人とつき合い、観察者の役割を果たす。都会人によくあるタイプである。一方、仲間の中学生たちは暗い影を宿し、陰湿な過剰性を秘めている。一見のどかな地方で起きる陰湿ないじめと暴力は、まるで現代の日本社会そのままの縮図だ。平穏に見えるがヘイトや格差のまん延、弱い者がまたさらに弱い者たたきに走る連鎖。つまり本書は閉鎖空間の異様さを日本社会に重ねたのだ。ゆえに地方の旧盆行事や夏の祝祭と題名の比喩が共鳴し合い、転校少年の成長物語と読もうとすると、意表をつく仕掛けとなる。「送り火」とは、誰が何を送る火なのか。題名の意味を深く考えさせられた。芥川賞にふさわしい一級の作品だ。(文芸春秋 1512円)

<略歴>
たかはし・ひろき 1979年生まれ。2017年「日曜日の人々(サンデー・ピープル)」で野間文芸新人賞

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