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<書評>女になる方法

キャトリン・モラン著

ロックなフェミニストの自分史
評 谷村志穂(作家)

 ロック・ミュージックは、階級社会の分厚い壁を突き抜けるようにして、1960年代のイギリスで黄金期を迎えた。日本にいるとこの壁の厚さはなかなか実感できないが、英国の若者たちには常に突きつけられている人生の壁であり、突破した人間たちはその根源的な力を言葉にものせて発信し続ける。

 本書を執筆したジャーナリストのキャトリン・モランは、テレビ番組の司会者もこなす著名人のようだ。アイルランド系の労働者階級の出身、子供の頃は「おデブちゃん」で友達がなく、本書の礎は15歳で書いた。

 全編イギリス人らしい皮肉でいっぱい。少女から大人の女性になるまでの自身の体験的な記録だが、貫かれている極太の骨は、独自のフェミニズムであり、ロックな信念の表明である。

 〈フェミニズムの目的は、特定のタイプの女を作ることじゃないんだもん〉〈どれだけイカれてて、ウスノロで、勘違いしてて(中略)、ひとりよがりだろうと、女は男と同等に自由であるべきだっていうだけの信念〉

 これまでフェミニストたちの多くがインテリ層であり、学術論文や統計を多用して語ったのに対し、モランはセレブたちや〈光沢ある表紙のファッション誌〉とも仕事で繋(つな)がり、女性として生きる術を現場で見いだしていく。

 性差別、恋愛、結婚と章立てされ、中絶の章では、自分の体験を生々しく書いている。3人目の子供は夫と中絶を決め、手術を受け、乳飲み子の待つ家へその日のうちに帰宅している。命を軽々しく扱って見えなくもない。だが読者と率直に分かち合っているのは「偉大な母」「完璧な母」像への畏怖ではなく、現実の女性たちが心のバランスを保ちながら過ごす日々への葛藤だ。

 中絶する権利を彼女はあえて書いた。本書が出版されて程なく、モランのルーツ・アイルランドでは国民投票の結果、女性たちの中絶がはじめて合法化されている。イギリスは、本書をベストセラーとした。(北村紗衣訳/青土社 2052円)

<略歴>
1975年生まれ。英国の音楽ライター、作家、テレビ司会者

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