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<書評>野球の国から

日刊スポーツ新聞社著

江川、斎藤佑樹…元球児の本音
評 中村計(ノンフィクションライター)

 同書はスポーツ紙の連載をまとめたもの。登場する19人の元高校球児たちは全員が甲子園出場の経験を持つわけではないが、中には荒木大輔、斎藤佑樹など、この時期の高校野球モノの「常連中の常連」もいる。ただ、毎回、同じ話をしているつもりでも「今の自分」がブレンドされることによって記憶は微妙に変化するものだ。

 作新学院でさまざまな剛球伝説を築いた江川卓は、もはや有名な話だが、あまりにも実力が突出していたため、最後の夏はチーム内に不協和音が漂っていた。そうして迎えた全国高校野球選手権大会の2回戦、銚子商戦。0―0のまま試合は延長12回裏に突入し、最後は1死満塁からサヨナラ押し出し四球を与えて作新学院は敗れた。にもかかわらず江川は振り返る。

 「内容はひどいけど、“8・16”が、オレの高校野球のベストゲーム」

 この言葉から読み取れるのは、あれから四十数年、江川がどのような人生を辿(たど)って来たのかということだ。だから、昔の話であって、昔の話ではない。


 今のところ、今世紀最大の甲子園のスターは2006年夏に早実を全国優勝に導いた斎藤佑樹だろう。斎藤の章では、斎藤が試験期間中、世話になったという同級生の豊吉(とよし)伸樹が登場する。彼は控え選手だったが、学年で1位を取ったこともある学力優秀者。今は大手銀行で働いているという豊吉は話す。

 「僕のことは忘れられているんじゃないかと思っていました。そんなに感謝されていたなんて、うれしいですね」

 1980年代、一世を風靡(ふうび)した池田高校の元エース畠山準のこんな感慨も、今だからこそ聞ける言葉だ。当時は3連投、4連投は「過酷なことではあるけど、なんとも思わなかった」。「変わるんだろうなと思いながら見てるんですけどね、野球も」

 この夏、全国高校野球選手権大会は、100回目を迎える。その濃密さと重さは、そのままこの本の充実度となっているように感じられる。(ベースボール・マガジン社 1944円)

<略歴>
日刊スポーツの長期連載「野球の国から 高校野球編」より、2017年に掲載した中から19編を収録した

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