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<書評>よみがえる戦時体制

荻野富士夫著

権力が生み出す「からくり」
評 高瀬毅(ノンフィクション作家)

 冒頭から胸の奥がざわつく。小林多喜二の話から始まるからだ。いうまでもなく、戦前の特高(特別高等警察)の拷問によって虐殺された作家。「眼前で進行する戦争遂行の『からくり』を誰よりもするどく的確に見抜いた」ゆえに権力に狙われた。多喜二が生きた戦前の「戦時体制」と現代との類似性を指摘する警告の声は多いが、治安体制の専門家によって書かれた本書には、それを確信させる事実が詳細に記述、論じられている。

 戦時体制とは「戦争のできる」体制を言う。それは軍事的な面だけでない。警察、監視システムの強化、拡大を図る法律が整備され、人権が著しく制限される体制を意味する。「戦前治安体制を支える主翼の位置にあったのは、法令としては治安維持法であり、機構・機能としては特高警察と思想検察」である。

 むろん戦前の禍禍(まがまが)しさはまだ顕在化してはいない。しかし、「戦争のできる国」へ向けて、いくつもの法律が着々と整備されてきた。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を可能にした安保関連法、共謀罪法は最たるものだ。問題は、それらが突如浮上してきたのではないこと。戦時体制は敗戦で「解体」されたものの、「冷戦に伴う米国の占領政策の転換と相まって、戦後数年を経ずして戦前的理念・組織などが継承された」と著者は指摘する。「国際貢献」や「積極的平和主義」といった理由で、自衛隊の制限がなし崩しにされてきた過程は、「戦時体制」形成の軌跡である。目的を遂行するためには国内の治安体制を強化させる必要がある。その文脈に先の法律を重ね合わせれば、現政権が明確な意思をもって「戦時体制」の復活をもくろみ、完成の域に達しつつあることが分かるはずだ。

 状況は楽観を許さない。それでも著者は、「闇のなかに光」を見て、次代への展望を導き出した多喜二にならい、戦争を生み出す「からくり」の構造を明らかにしたいと、本書を書き上げたという。戦時体制の戦前、戦後の比較検証に力を注いできた学究の覚悟みなぎる一冊だ。(集英社新書 950円)

<略歴>
おぎの・ふじお 1953年生まれ。小樽商科大名誉教授。日本近現代史専攻。著書に「特高警察」「思想検事」など

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