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<書評>原発とジャングル

渡辺京二著

物質文明への抵抗 透徹した思索
評 大塚茂樹(ノンフィクション作家)

 米寿を目前にした著者のこの2年間の19本の論考を編んだ1冊。思索の深さに誘われる。

 原発がいやならジャングルへ戻れと喝破した吉本隆明。その挑発に応答せんとする著者は、アマゾン奥地のジャングルの民の生活空間をたどる。農耕の開始が人類の受苦の始まりであることを示唆する。

 物資文明=科学技術の進展をどう捉えるか。3・11後の社会像を問う際も緊迫した主題だ。

 されど人間は技術文明を放棄できない。原発反対運動を冷笑した吉本を問い、科学技術の進展を不可避な自然過程としたマルクスの議論も再吟味して、文明を保持しつつ管理と支配から自由な共同社会を模索する。

 夢想でなくその像を形作ることは至難である。だが「物神崇拝」に抗(あらが)おうという姿勢はみずみずしい。

 キーワードは受苦と夢。戦時中に世界一の航空機の開発を夢見た少年は、敗戦後に17歳でコミュニストになり後に離脱。その後も思想的格闘を続け、石牟礼道子や水俣の民との深き縁でも著名。苦しみと夢を抱え込む人間への関心は不変である。

 2016年熊本震災の被災者として、敗戦を迎えた大連での空腹と凍える日々を想起した。若き日の受難とは異なり、高齢者ゆえの苛酷さも実感。万巻の書が散乱して生活再建の障害と化した。だがその書物を手放さず、思索を止めることはなかった。

 そもそも生命維持のための労働は苦役なのか。料理などを低級な労働とみなすのは、魅惑的な料理で愛する者たちを悦ばせたことがない人の発想だとプラトンに反撃。アーレント等にも挑む厳しい視点に感服した。精神の喜びが共鳴し合う場として宴の意義を見つめる。飲食や性行為を生命維持行為として軽視する思想家たちに同調しない。その姿勢は、物質文明への抵抗とも響きあう。透徹した思索ゆえのたまものである。

 書物との出会いの高揚感を長く忘却していた人に、かつての読書体験を蘇(よみがえ)らせよう。(晶文社 1944円)

<略歴>
わたなべ・きょうじ 1930年生まれ。評論家。著書に「黒船前夜」「死民と日常」など

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