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<書評>蜜蜂

マヤ・ルンデ著

時空超えて交錯 三つの物語
評 冨重与志生(明治大教授)

 500ページ弱の本書「蜜蜂」は、現代(2007年)・過去(1852年)・未来(2098年)の三つの物語が交錯して並走する、複雑な織物のような小説である。しかも、この三つが全く異なる国を舞台にしている。現代のアメリカ・オハイオ州、過去のイギリス・ハートフォードシャー、未来の中国・四川省。三鄙(さんぴ)物語と呼ぼう。

 この三鄙物語を貫く縦の糸は、ミツバチと養蜂の運命。横の糸は、三者三様の主人公をめぐる家族の、とりわけ親子の物語。彼らはみな既婚者で、まだ成人に至らない子どもを抱えている。子をめぐる親の煩悩には、時代と場所の相異も関係がない。

 オハイオで代々の家業を営む昔気質の養蜂家ジョージは、その気のない一人息子トムに何とか家業を継がせたい。生物学者くずれのハートフォードシャーのウィリアムも、自身の学者としての挫折を背景に、息子エドムンドに大きすぎる期待を寄せている。絶滅したミツバチに代わって、手作業で果樹に受粉させられている大量の労働者の一人、四川省の女性タオは、幼い一人息子ウェイウェンには、果樹にのぼるのではなく、上層階級にのぼって暮らしてほしい。

 各物語は、ジョージのが22の断片に、ウィリアムが20、タオのが21に分割されており、交互に少しずつ順序を入れ替えながら全体が織られていく。

 87ページまでは、それぞれ三つの断片が、タオ、ウィリアム、ジョージの順を正確に繰り返しながら、まるで何の連絡もないかのように語られる。その平凡な秩序が88ページから乱れだす。この乱れの中から意外にも、ウィリアムとジョージ、ついにはタオの物語もまた、同じ縦の糸に貫かれていることが次第に明らかとなっていく。環境破壊で荒廃した、パンドラの箱が開いた世界。ハチがいなくなった箱にも、それでも最後は神話同様「希望」が残っていたという、少々でき過ぎ感のある良質な大人のSFメルヘンである。(池田真紀子訳/NHK出版 2160円)

<略歴>
1975年生まれ。ノルウェーの作家、テレビ台本作家

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