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<書評>江戸の骨は語る

篠田謙一著

DNA分析 スリルの謎解き
評 澤宮優(ノンフィクション作家)

 遺跡から人骨が見つかり、それが誰なのか判別するのは可能だろうか。これまでの埋蔵文化財の調査報告では推定の領域でしかなかった。ところが近年自然科学でDNA解析が進み、発掘調査で出土した骨はDNA鑑定でかなりの精度で特定できるようになった。

 2014年に東京都文京区の「切支丹(きりしたん)屋敷跡」から人骨が出土した。本書では分子人類学の専門家の著者が、人骨が江戸時代の宣教師シドッチだと特定するまでの研究過程を追った。シドッチは、彼の見聞から幕府の権力者新井白石が「西洋紀聞」を著したことでも知られている。

 「切支丹屋敷」は切支丹を収監するための幕府の施設である。シドッチはこの屋敷で1714年に没し、その地に葬られたと当時の文献に記されている。

 人骨は、形、性別、年齢、身長など形態学から研究されていた。今回の出土人骨は男性、身長170センチ、年齢は40歳から70歳、歯の形態からヨーロッパ人である点までは判明した。著者はさらにDNA分析を行って人物を特定することに挑んだ。

 人骨のDNAの配列、核ゲノムの解析で人骨がイタリア人であることを突き止めた。形態学の成果と合わせ、人骨はシドッチに間違いないと結果がでるまでの謎解きは、スリルがあって読み手を飽きさせない。データからシドッチの生前の顔も復元された。彼がどんな顔なのか本書で見て頂ければと思う。

 本書では、2010年にドイツの研究グループがネアンデルタール人の核ゲノムを解析し、ホモ・サピエンスの数%にも彼らのDNAがあると示唆したことが記述されている。ネアンデルタール人は私たちに繋(つな)がる人類である可能性も出て来た。

 著者はそんな事例も広く紹介、科学の意義を記す。

 <科学も文化の一部であり、われわれの社会を豊かにする営みである>

 今後DNA解析が進み、歴史の分野でも史実が想像以上に大きく解明されてゆくだろう。その可能性に興味は尽きない。(岩波書店 1620円)

<略歴>
しのだ・けんいち 1955年生まれ。国立科学博物館副館長(兼)人類研究部長

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