PR
PR

<下>「人材、育っています」 大学核に拠点化の芽

■大手から札幌へ

 富良野市出身の菅原翔悟さん(28)は4月、4年ぶりに札幌の人工知能(AI)開発現場に戻った。

 北大大学院でAIを学んだ。就職先には大手電機メーカーの三菱電機(東京)を選んだ。だが、配属先は、顧客に技術説明する営業職。「大学で学んだAIの知識が直接生きることは少なかった」

 新たな職場はAI開発の調和技研(札幌)。わずか15人ほどの小所帯だが、大手企業の社内情報をAIが整理する仕組みなどを制作。菅原さんも文章を解析するAI作りに取り組む。

 調和技研は、北大発ベンチャーとして2009年に生まれ、北大出身者を多く採用する。旧北海道拓殖銀行出身の中村拓哉社長(57)は「大学での成果が、論文のみで終わるのは寂しい。実用化には別の達成感があるはず」と人材獲得に積極的だ。日立系企業など大手との共同開発や地元企業との提携による資金調達など、小回りの利く経営で事業拡大を図る。

 もう一つの北大発ベンチャー、テクノフェイス(札幌)は、インターネット上などの膨大な情報「ビッグデータ」から、ホテルや催事チケットの最適価格を提案するAIシステムを手がける。技術者21人のうち、北大出身者は3分の1。東京や関西の大学出身者も多い。世界的な技術者争奪戦の中でも人材が集まる理由を、石田崇社長(44)は「転勤もなく腰を落ち着けてAIの仕事を続けられるからでは」と話す。

 かつて札幌は、米国のシリコンバレーにちなんでIT関連企業が集積した「サッポロバレー」と呼ばれ、ハドソン、ビー・ユー・ジーなど多くの企業が誕生した。しかし、ITバブルが崩壊した2000年代前半以降、多くが東京に拠点を移したり、札幌に残っても下請け仕事中心になったりして、活力は弱まった。

■「脱下請け」可能

 北大大学院の川村秀憲教授(45)=情報理工学=はAIが新たな局面を開くと期待する。鍵を握るのが、大学とベンチャーの連携だ。「下請けでないAI作りが今の札幌では可能。実績をカタログ化すれば、他地域からも仕事が舞い込む」

 北大は文系理系を問わずデータサイエンティストを育成する国内6大学のひとつとして、文部科学省に選定されている。東京より北では唯一だ。データサイエンティストはビッグデータから何を残し、捨てるか、専門的知見で判断する。開発したいAIの機能に応じ情報を選択する重要な役目だ。

 AI拠点化の芽は札幌以外にも広がる。未来シェア(函館)は、公立はこだて未来大の研究者を中心としたベンチャー企業だ。8月に鳥取県内で、外国人観光客用乗り合いタクシーを対象に最適な走行ルートをAIが決める実験を始める。限られた車両を効率的に動かすメカニズムを作ることで、将来的に過疎地域の公共交通システムへの応用を図る。

 「AI社会の到来で、国内ではデータサイエンティストが50万人不足する」。北大総長補佐の長谷山美紀教授(55)=次世代情報システム=は指摘する。だが、有能な人材は道外の大手企業に奪われているのが実情だ。「道内からの人材流出を食い止め、再び戻りやすい環境を整えるために、制度面でも後押しがあれば」

 AIは北海道の新たな産業の柱となり得るのか。専門家任せでなく、行政や地元企業を巻き込んだ仕掛けが必要となる。

 <ことば>ビッグデータ インターネット上のほか、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の進歩でカメラやセンサーなどからも収集される巨大な情報の塊。人工知能(AI)はこれらを分析、学習することで推測や判断を下す。

どうしん電子版のご案内
北海道新聞 購読の申し込みはこちらから
新聞配達スタッフ募集
ページの先頭へ戻る