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<書評>沸騰インド

貫洞欣寛著

経済成長する大国の実情
評 根井雅弘(京都大教授)

 本書の冒頭にはいきなりショッキングな言葉が登場する。「ほぼ確実に言えることがある。日本は間もなく、インドに追い越される」と。たしかに数字だけを見れば、年率7%の経済成長率が10年も続けばインドのGDPが日本のそれを超えることはほぼ確実である。だが、数字だけでは複雑な問題をいくつもかかえる現代インドの実情はわからない。

 最近私たちの注意をひくのは、ナレンドラ・モディという個性的な首相がインドの変革をリードしていることである。インドでは珍しいトップダウンの政治手法で、投資の誘致、電力や道路などのインフラの整備を着実に進めている。しかし、モディは「ヒンドゥー・ナショナリスト」としての顔をもっており、イスラム教徒との対立・抗争において差別を黙認するかのような言動も見られた。

 カースト制度も日本人にはわかりにくい。昔も今も、カーストの四つの階層外に置かれ、宗教的にも社会的にも差別を受け続けている「ダリット」(「抑圧された者」の意味)がいることはある程度知られているが、現代インドで「カースト」として語られるのが多いのは「ジャーディ」(出自)と呼ばれるもので、職業・血縁・宗派などに応じて数千もの種類があるという。インド憲法は建前上、宗教・人種・性別などに基づいた差別を禁じているので、指定されたカーストや部族に対して、公務員の採用や大学への進学などのときに優先枠を設けている。ところが、その優先枠に自分たちも加わりたいと、カースト上は上位にいるにもかかわらず、相次いで「カースト格下げデモ」があるというから驚きだ。カースト意識は現在のインドでも社会を分断しかねない爆弾のようなものだ。

 ITの先端を走り、日本の新幹線を導入し、着実に経済成長を成し遂げつつも、出自や宗教などに基づく差別がいまだに消えない大国インド――多様性に富むこの国の実情を豊富な具体例で紹介してくれる好著だ。(白水社 2376円)

<略歴>
かんどう・よしひろ 1970年生まれ。デジタルメディア「BuzzFeed Japan」ニュースエディター

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