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<書評>ゴリラからの警告 「人間社会、ここがおかしい」

山極寿一著

ヒトの幸せ 動物の視点で
評 柳川久(帯広畜産大副学長)

 最初にその職階についてばかり書いて申し訳ないが、この本の著者は現在、京都大学の総長であり、国立大学協会の会長であり、日本学術会議の会長でもある。言うなれば、私たち大学人組織の束ねのボスゴリラがこの本の著者である。

 著者の肩書だけ見ると、とんでもなく難解な内容の本になりそうだが、本のタイトルや装丁を見ても分かるように、決して小難しい本ではない。いやむしろ、読みやすく、あっという間にでも読めてしまいそうな本である。それぞれの文章が短く、独立しているため、何かの合間合間に少しずつ読み進めても、全く問題ない。これは本書が比較的短文の新聞のコラムをベースとしているためであろう。

 著者は「はじめに」の最初の文章で、「ゴリラの国に留学してきた」と思っている、と書いている。それもかなり本気で。長年ゴリラの研究に携わった著者は、ゴリラたちと共に暮らすうちに彼らの国のマナーを学び、一頭のゴリラと化してのち、人間社会に戻ってきてみると、人間の動作がぎごちなく見えたという。人間は高度な科学技術を発達させ、自然とは全く異なる人工的な環境で暮らすようになった。その人工的な環境との間に、生活習慣病、アレルギー、自閉症、家庭内暴力、いじめ等のミスマッチが生じて来ている。

 本書では、本のサブタイトルにもある「人間社会、ここがおかしい」の、著者が「おかしい」と感ずる部分への、著者(ゴリラ)の目を通した解析と、動物の1種類であるヒトの、本来あるべき姿はこうではないかという考えや思いが記されている。

 3章に分かれた1章では、食と住が動物と人間ではどう変わり、それが人間の生き方にどう影響を与えたか。2章では大学の総長となり、またゴリラとの暮らしで実感した教育に関する考えについて。そして最後の章では動物との対比によって人間の真の幸福とは何かを考える構成になっている。ゴリラ版「君たちはどう生きるか」なのだ。(毎日新聞出版 1512円)

<略歴>
やまぎわ・じゅいち 1952年生まれ。京大総長。理学博士。霊長類学、人類学者。著書に「暴力はどこからきたか」など

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