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オウム死刑囚執行 「なぜ」の解明は終わらぬ

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 地下鉄サリンや松本サリンなど一連のテロを引き起こしたオウム真理教事件で、首謀者の松本智津夫死刑囚=教祖名麻原彰晃=ら7人の刑がきのう、執行された。

 松本死刑囚の刑確定から12年、事件は大きな節目を迎えた。

 しかし、若者たちがなぜ教祖の常軌を逸した計画に従い、未曽有の凶悪犯罪に突き進んだのか、いまだに謎は尽きない。

 悲劇が繰り返されることがあってはならない。それには今回の執行を区切りとせず、今後も疑問点を徹底的に解明する必要がある。

 宗教学のほか社会学、心理学といったさまざまな角度からの不断の検証が欠かせない。

 地下鉄サリン事件から20年以上が経過し、「オウム」を知らない若い世代も増えている。事件の記憶を風化させることなく、次代に伝えなければならない。

■検証は政府の責務だ

 確定判決によると、死者13人、重軽傷者6千人以上を出した地下鉄サリン事件は、教団への強制捜査を阻止するために東京都心で混乱を起こすことが目的だった。

 8人が犠牲となった松本サリン事件は、教団の施設建設を巡って自分たちに不利な判決が出そうになり、裁判所の宿舎を狙った。

 坂本堤弁護士一家殺害事件も教団の問題を追及していた弁護士を逆恨みした犯行だった。

 いずれもあまりに身勝手な犯行で、猛毒のサリンで市民を襲うという手口も残忍極まりない。社会に大きな不安を与えたことも見過ごすことはできない。

 松本死刑囚は教団を批判する個人や組織を敵と決めつけ、無差別テロを正当化していた。

 いまも判然としないのは、松本死刑囚が極端な思想を持つようになったいきさつや、犯罪とは無縁の若者が教祖の命じるまま凶行に手を染めてしまった理由だ。

 マインドコントロールを受けていたとの指摘もあるが、それだけでは説明がつきにくい。

 死刑の執行は、事件の当事者たちから話を聞く機会を永遠に失ったことを意味する。

 事件の真相を探るためには、なお死刑囚に語らせるという選択肢もあったろう。

 たとえば、今回執行された中川智正死刑囚は事件について謝罪し、サリン製造の経緯を手記で詳述していた。

 法廷では明らかにならなかった真実を聞きたかった。そう思う被害者や遺族は少なくないのではないか。

 死刑の執行で司法的な手続きは終わることになる。

 しかし、謎が数多く残っている以上、政府による積極的な解明が求められよう。

 実行犯や元信者からの聞き取りや被害者への継続的な調査などを含め、さまざまな手だてを講じてもらいたい。

■求められる情報開示

 一度に7人の死刑執行は異例にもかかわらず、法務省の説明は決して十分とは言えない。

 上川陽子法相はきのうの記者会見で、慎重な検討を重ねたうえで執行を命令したと述べたが、執行のタイミングや、13死刑囚の中から7人を選んだ理由などについては明らかにしなかった。

 死刑は「究極の刑罰」である。情報は国民にすべて公開してしかるべきだ。オウム事件は日本の犯罪史上最悪の無差別テロだけに、一層説明を尽くす必要がある。

 オウム真理教の後継団体は活動を活発化させ、若者への勧誘を強化しているとされる。

 今回の執行によって松本死刑囚が一部の信奉者から「神格化」される懸念もある。

 さまざまな不測の事態を防ぐためにも、事件に関する情報公開を怠ってはならない。

■問題意識共有したい

 サリンによる後遺症などに苦しみ続ける被害者は依然多い。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を訴える人もいる。

 政府は、継続的できめ細かい支援に取り組むべきだ。

 オウム真理教の後継団体による被害者らへの賠償も遅々として進んでいない。裁判で係争中の事件もあるようだが、後継団体には真摯(しんし)な対応を求めたい。

 オウム真理教を巡っては、世の中になじめず、居場所を見つけられない若者たちの心の隙間に巧妙に入り込んだという分析がある。

 バブル経済崩壊後の漠然とした将来への不安が、信者を増やしたとの側面も指摘される。

 だとすれば、この社会にオウムを生みだす土壌があったと言えるのではないか。

 オウム事件を異常な教祖と、それに従った信者による特異な犯罪と片付けてしまってはならない。

 広く問題意識を共有し議論を重ねることが、事件の再発を防ぐ有効な手段となる。

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