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<書評>蕎麦、食べていけ!

江上剛著

地方救う金融マンと女子高生
評 岡崎武志(書評家)

 「地方衰退」とキーワードで検索すれば、少子高齢、人口減少、限界集落などを原因とした多くの記事がヒットする。確実にゆっくり沈む船のような事態を前に、何か手だてはあるのか。元メガバンクに勤務した著者が、小説のかたちで、この難問に立ち向かう。

 国道120号線沿いにある群馬県の温泉町が舞台。バブル時期には栄えたが、今は疲弊の一途をたどる。そんな地方都市に大阪からやって来た女子高生が竹澤春海。両親が離婚し、母の故郷があるこの町で、祖父母とともに暮らし始めた。

 ある時、地元信用金庫に勤める青年・赤城勇太と知り合うが、なぜか勇太は春海と竹澤家のことに詳しい。両家には、春海の知らない過去の因縁があるらしかった。

 勇太が、地域活性化案として、祭を起こし、同時に女子高生の蕎麦(そば)打ちイベントを提案することから物語が動きだす。春海が通う実業高校の助力を仰ぎ、蕎麦打ち名人である春海の祖父・誠司をかつぎ出した。しかし、勇太の兄で、東京のメガバンクに勤める勇之介が、新規事業として一大リゾート化計画をこの町で展開しようとしていた。大型ホテルの買収を始め、勇太の提案は暗礁に……。

 著者は、地方と東京、地元密着の信金とメガバンク、弟と兄、そして劇的な破局劇で反目する二つの家など、対立軸を幾つも設け、読者を巻き込んでいく。金融の役割やクラウドファンディングの手法など、あらためて詳しく示す辺りに、著者の経験が生きている。勇太が兄の銀行に乗り込み、幹部相手に啖呵(たんか)を切るセリフがある。

 「地域を育てることもせず、ただ儲(もう)けるためだけに融資をする。そんな銀行はクズです。この世の中に不要です」

 若者と女子高生の無償の熱い心が地方を救う。祭の中で、「蕎麦、食べて行け! 蕎麦、食べて行け!」の明るい掛け声が、集まった観光客の前で響くラストが爽やか。ぜひ、続編を読みたいものだ。(光文社 1620円)

<略歴>
えがみ・ごう 1954年生まれ。旧第一勧銀で人事部、広報部などを歴任。2002年、「非情銀行」で作家デビュー

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