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<書評>西部邁 自死について

富岡幸一郎編著

「保守思想」の根底に北海道性
評 藤田直哉(文芸評論家)

 西部邁(すすむ)には肩書が多い。保守思想家、経済学者、元革命家、元東大教授などなど。しかし、本書を読むと、肩書に隠された人間としての西部邁が見えてくる。北海道出身者の西部の根には「北海道性」があることも明確にわかる。

 本書は、死について西部がこれまで語ってきた内容を選(え)り抜いて編まれた1冊である。西部は2018年1月21日に多摩川に入水して自殺した。理由は20年以上前から理路整然と語られている。決して超越的な何かを目指した信仰やロマン主義ではない。老化によって精神が自由にならなくなるのを憎むがゆえに、精神によって身体を滅する。

 身体や死は、人間の中に残された究極の「自然」である。それを「精神」によって人為的に捻(ね)じ伏せる行為が、西部の考える自死である。多摩川という自然の中にわざわざ赴き、ハーネスを使い人工的かつ作為的な自殺をした西部の、自然と人工の複雑な絡み合いが見て取れる。

 この矛盾と葛藤こそが、西部の保守思想であり、北海道性だ。西部は「私の保守思想そのものが北海道的であることは否定できない」(『友情』)と言っている。

 保守思想とは、共同体の歴史の中に自然に続いてきた伝統や慣習を尊重する思想である。しかし、北海道への移民には、土地に根ざして長く続く伝統や慣習がない。西部は身体に根付いた保守思想家ではない。かなり観念的な「保守」であり、その人工的な「保守」という矛盾した有様(ありよう)に北海道の刻印が強く残っていることを明確に自覚し、発言している。

 本書の後半は、先立って末期癌(がん)で亡くなった妻に関する文章が並ぶ。16のときに札幌で出会った妻がどんな存在だったのか。妻は「故郷感覚と日常感覚の醸成される場所」「『故郷と日常』の代用品」(161ページ)だったのだ。妻を失い、西部は「スクラップ」になっていく自分を感じていた。根を失ったのだ。

 西部が亡くなった次の日、多摩川には雪が積もっていた。(アーツアンドクラフツ 1944円)

<略歴>
とみおか・こういちろう 1957年東京生まれ。文芸評論家。関東学院大教授。著書に「川端康成 魔界の文学」など

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