PR
PR

<書評>デジタル・ポピュリズム

福田直子著

ネットの政治的利用を危惧
評 武田徹(ジャーナリスト)

 最近、デジタル・レーニン主義という言葉をよく聞く。電子決済の履歴を収集して個人の行動を把握、問題行動をあぶり出す中国の習近平政権の人民統治法を指すという。実はそれは“対岸(の共産主義国家)の火事”ではない。何を検索し、どのサイトを訪ねたか。ネットもまた個人の把握ツールになる。当初は通販利用歴に応じてお勧め商品を示すのがせいぜいだったが、今やネット経由での個人データ収集と利用は多岐に及ぶ。

 著者が特に危惧するのはネットの政治的利用だ。利用履歴を人工知能が分析し、検索結果やSNSのタイムラインに個人の政治的傾向に合わせた情報を表示する。それはお勧め商品を示す方法の応用だが、自分の信じる政治的主張のみが表示される情報空間に利用者を閉じ込める結果となり、反対意見や冷静な分析を目にしなくなるので、主義主張を先鋭化させやすい。

 民主化に踏み出したミャンマーで少数民族への迫害がむしろ強まったのは、自由化で導入されたSNSによって少数民族に関する事実無根の悪い噂(うわさ)が流れたからだったという。特定の政治的主張を持つ者は自説を補強するものであれば何でも信じる傾向があり、デマやフェイクニュースの格好の餌食になる。先進国ではボット=プログラムを使って同じ情報を何度もツイートしたり、「いいね」ボタンを大量に押してくれる業者に依頼してSNSのタイムラインを独占する手法も使われるようになった。こうして気づかれることなく特定の傾向に人々を誘導して統治する「情報戦」の勝者が、英国のEU離脱派であり、トランプ陣営であった構図を本書はわかりやすく示している。

 バラ色の未来を開くはずだったネット技術が開いたのはパンドラの箱だった。民主主義を健全に保つには「ネットをどう手なずける」か考える必要がある。そんな著者の指摘に共鳴し、ネット社会の正常化に向けて動きだす人の数が多ければ、パンドラの箱の底にはまだ希望が残されていたことになるのだろう。(集英社新書 799円)

<略歴>
ふくだ・なおこ ジャーナリスト。上智大卒業後、ドイツの大学で政治学、社会学を学ぶ

どうしん電子版のご案内
北海道新聞 購読の申し込みはこちらから
新聞配達スタッフ募集
ページの先頭へ戻る