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働き方改革法成立 過労死防止の決意どこへ

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 安倍晋三首相は「二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意」で、過労死を招く長時間労働の是正に取り組むのではなかったか。

 むしろ、長時間労働を助長するとの危惧を抱かざるを得ない。

 首相が今国会の最重要課題と位置づける働き方改革関連法がきのう、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。

 首相は「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」と胸を張るが、働く側にとっては「大改悪」になる恐れがある。

 残業時間には罰則付きの上限規制が初めて設けられたが、基準があまりに緩すぎる。

 最大の問題は、一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)だ。

 対象者は何時間でも働かされかねない。そんな危うさをはらんでおり、過労死防止に逆行する。

 関連法には、非正規労働者の待遇改善に向けた同一労働同一賃金も含まれている。だからといって、働く人の健康が犠牲にされていいわけがない。

■労基法を壊す高プロ

 命と健康を守るため、長時間労働を抑制する。労働基準法の労働時間規制は、労働者保護の要となる原則と言えよう。

 高プロは、一部とはいえ、これが適用されない例外を設けるという重大な変更である。

 導入に際して年104日以上、4週間で4日以上の休日取得が義務づけられる。

 104日は週休2日とほぼ変わらない。逆に、4日休ませれば、4週間のうち残る24日は連続で働かせることも可能になる。

 ほかにも四つの健康確保措置があるが、一つを選択すればよく、多くの企業は、この中から臨時の健康診断を選ぶとみられる。過労の歯止めとはなり得ない。

 政府は監督を強化すると主張するが、高プロの労働者は規制の対象外だ。労働基準監督署は何を根拠に、企業を取り締まるのか。

 企業は残業代も深夜・休日手当も支払わなくてよい。

 労働時間を管理する義務もないので、実際に働いた時間を把握できなくなる懸念がある。

 これでは取り締まりどころか、労災の認定さえ困難だろう。

 労働者派遣法や裁量労働制と同様、対象がなし崩しに広がる可能性があることも大きな問題だ。

 高プロの対象は「年収1075万円以上」の専門職とされるが、厚生労働省の省令で具体的に決まる。かつて経団連は「年収400万円以上」を提言していた。

 国会審議を経ず、省令によって例外措置が際限なく拡大されれば、労基法は壊されたも同然だ。

■残業規制は甘すぎる

 肝心の残業時間の上限規制は企業側に甘すぎる。繁忙期に月100時間未満、2~6カ月で月平均80時間まで残業を認めた。

 過労死が労災認定される目安と同じだ。現実には、もっと短い時間でも過労死は起きている。

 死ぬ寸前まで働かせてもいいと、法律でお墨付きを与えるようなものではないか。

 過労が深刻な自動車運転業、建設業、医師には、5年間適用が猶予されたのも疑問だ。これでは過労死防止の実効性は疑わしい。

■一括の手法は強引だ

 関連法には、同一労働同一賃金のように働く人を後押しする制度もある。非正規労働者の賃金水準は正社員に比べ、欧州の7~9割に対し、日本は6割にすぎない。

 同一労働同一賃金の実現は急務であり、労働者の格差是正に不可欠の改革である。

 財界の宿願だった高プロなどとは切り離してじっくり審議すべきなのに、性格の異なる8本の改正法案が束ねられた。

 安倍政権は、2015年にも10本一括の安全保障関連法を成立させた。働き方改革関連法とともに可決された環太平洋連携協定(TPP11)関連法も10本からなる。強引と言わざるを得ない。

 政府の答弁は論点のすり替えが目立ち、極めて不誠実だった。

 高プロの調査も、対象はわずか12人で、うち9人は、野党が今国会で「働き手のニーズ」を追及した翌日に聞き取りを行ったという。まさに泥縄である。

 参院野党第1党の国民民主党が厚労委員会での採決に応じ、野党の足並みが乱れたのは残念だ。

 労働者の命と健康に関わる問題である。多くの疑念が解消されないにもかかわらず、成立阻止に手を尽くさないなら、働く人からの支持は広がるまい。

 そもそも首相は労働規制を「岩盤」とみなし、その打破を成長戦略に位置付けてきた。発想自体が経済界寄りだ。

 関連法の徹底的な検証に加え、運用を厳重に監視し、過労死根絶に向けた努力を、社会全体で続けねばならない。

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