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<行間往来>対米従属「戦後の国体」 歴史直視し閉塞打開を 白井聡さん

 「国体」という、いかにも戦前を思わせる言葉をタイトルに掲げた本がベストセラーとなっている。「国体論 菊と星条旗」(集英社新書)が発売から6週間で7万部を記録した。「国体」をキーワードに切り込んだ対象の本丸は戦前ではなく現代日本の閉塞(へいそく)状況。「国体」を通して、なぜ現代の病が見えてくるのか。著者で政治学者の白井聡さん(40)に聞いた。

 ――国体といえば戦前の天皇制をイメージしますが、今の私たちも国体に縛られているとの主張ですね。

 確かに、天皇を絶対の頂点とする国家という戦前の国体は、敗戦で破棄されました。しかし、それは敗戦処理の過程でアメリカを頂点とするネオ国体と呼ぶべきものに再編された。我々(われわれ)を縛っているのは、菊ではなく星条旗を頂く国体です。

 ――日本国民にとって、もはやアメリカは天皇を上回る権威をもっていると言うのですね。

 自称・保守派の人たちは、今上天皇さえ左翼的だと罵倒しますし、アメリカに追従する安倍政権に異議を唱える人を「反日」、つまり反国体的であるとのレッテルを張っています。

 ――アメリカに戦争で負けたことから目をそらすという、日本の特殊な対米従属についての分析が「永続敗戦論」(2013年刊行)のテーマでした。それとの関係は。

 「永続敗戦論」を書きながら、その特殊性とは突き詰めれば、天皇制の問題だと気づきました。だから、それは国体の概念を使って説明できると思ったんです。戦前の国体は、天皇を大いなる父とする家族国家観を中核として、家族の中には支配はないと、支配の否認を強制しました。戦後民主主義はこの国家・社会観を乗り越えられず、戦前の「臣民を慈しむ天皇」が、戦後には「日本を愛するアメリカ」にすり替わる結果となった。だから、今衰退局面にあるアメリカにとって、日本は収奪の対象になっているのに、その現実を直視できないのです。

 ――安倍晋三首相は、安全保障面をはじめむしろ米国との関係を深めよ
うとしています。

 昭和天皇の逝去とほぼ同時期に冷戦が終結しました。本来なら、その際、対米従属が相対化されなければならなかった。この大転換を受け止められないまま時間を空費し、丸ごと<失われた時代>となったのが平成です。しかし、対米追従エリート層は現政権も含め、柱が抜けた建物を何としても立たせ続けようとしています。

 ――こうした矛盾はいつ頃から生まれたと考えていますか。

 矛盾は最初からあったのです。憲法9条を奉ずる絶対平和の国家と、日米安保体制の中で世界最強の戦争国・アメリカを支えるということ自体が矛盾です。大元帥と人間天皇を生きた昭和天皇の存在がこの矛盾を生んだ一方で、矛盾を覆い隠す役割を振られたのが沖縄です。沖縄に米軍基地が集中することで、国民は矛盾を認識しなくて済んだ。だが、昭和天皇の死、冷戦と経済成長の終焉(しゅうえん)で矛盾がいや応なく表面化してきました。

 ――「国体論」の最初と最後に登場するのは2016年8月の天皇陛下の「お言葉」です。

 失われた30年の結果として国民統合がずたずたになっていることへの強い危機感をあの「お言葉」には感じました。対米従属という<戦後の国体>によって国民の統合が壊され、戦後民主主義が危機に瀕(ひん)している。戦後民主主義は新憲法を核として、象徴天皇制とワンセットで生まれたのだから、戦後民主主義の危機は、即座に象徴天皇制の危機も意味する。お言葉は「象徴天皇制とは何か」という問いへ国民の目を向けさせることで、これらの危機を打開する手だてを模索しなければならないと呼びかけたものだと思います。

 ――沖縄の基地問題、原発の是非、格差の拡大などで、国民の分断が確かに進んでいます。

 日本の社会はニヒリズムに覆われつつある。これを止めるには思想の転換が必要です。まずは立ち止まって私たちの価値観や生活様式、文化がどういう状況にあるのかセンサー(感知する力)を働かせるしかない。

 ――今年は明治維新から150年。明治以降の国体の歴史を記述したこの本で、2022年が重要だと指摘しています。

 2022年に、戦前と戦後の長さが77年で同じになります。私たちは明治維新から敗戦までの歴史についてのイメージは持っていますが、戦後についてはそうでない。とくに冷戦崩壊後の歴史認識については、大局的な見方を欠いている。だから冷戦思考から抜け出せない。歴史と向き合うことで人々が変化し、世の中も変わる。今回の「国体論」は政治の本でもあり、新しい歴史の見方を提示した本でもあるのです。

 しらい・さとし 1977年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒業。一橋大大学院博士課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。現在は京都精華大人文学部専任講師。「永続敗戦論―戦後日本の核心」で石橋湛山賞、角川財団学芸賞、いける本大賞を受賞。このほかの著書に「未完のレーニン」など。今月には進藤栄一さんとの共著「『日米基軸』幻想」を出版した。

(東京報道編集委員 伴野昭人)

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