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6月の晴れた日に解き放たれた心

6月の晴れた日に解き放たれた心

 ミロの抽象画を前に「この人、ほんとうに勉強してるのかしら?」という年配のご婦人の声が響いた。「ブリヂストン美術館展」の来場者数5万人を超えたというニュースのあった数日後の北海道立近代美術館ではその他大勢の客が無言で鑑賞している。そのご婦人は友人とああだこうだと言い合いながら進み、狭量なわたしは「お静かに!」と心のなかで制していた。

 「あら~これだと、腰のデッサンがおかしいっていわれちゃうわね」との言葉でピンと張っていた緊張の糸が切れ、ぐふふっと吹き出した。天下のピカソの人物画もかたなしだ。あ~面白すぎる!「青の時代よね」と博識ぶりも披露される。おっと危ない!その隣りには、イラスト的な子どもっぽい絵が。わたしが描くような絵で、どれほど辛辣な評価がくだされるかと思いきや「これ好きだわ~」とのたまった。ほほう~それはお好みですか?と、なぜかほっとし日本近代洋画家のコーナーに移る。すでにご婦人方の解説に引き込まれ、失礼とは思いながらつかず離れずで聞き耳をたてた。

 「えーっ、これってもっと大きな絵だと思ったわ。写真の方が迫力あるのね」と青木繁の「海の幸」(重要文化財)へのコメント。お姉さまがた~!わたしもそう思います!と、つい声をかけたくなった。

 とかく美術館ではお静かにお行儀良く、したり顔で絵画と向き合ってしまうけれど、こんなに素直な見方に触れて心がすっかり開放された。第二会場の三岸好太郎美術館へは知事公館の庭を通る。年季が入った大木が見事だ。ゆったりと広げた枝葉の下は心地よく、日傘をたたんだ。日向の方では保育園の子どもたちの散歩の行列が影をつくり、カラスがニセアカシアの花房をくわえて水場へ降り立った。

 日本洋画壇を先駆けた画家の作品が続く。浮世絵や日本画に慣れた感性がギトギトと油臭い絵の具を使い、遠近法という感覚を身につけていくのはどんな風だったのかと思いを馳せる。最後のコーナーでこのアトリエの主の作品を前に、はじめて三岸好太郎のすごさを感じた。それまで見てきた、西洋の模倣めいた匂いがせず、西洋画を自分のものにしているのだ。蝶の標本を描いた「飛ぶ蝶」は幾度も目にする機会があったけれど、これまでとは違って見えた。赤い蝶のマチエールは生乾きの絵の具に筆先を何度も叩き付けた立体的な油彩的表現に対して、白い蝶はさらっと筆をすべらせ、羽の線描は日本画のような繊細さを感じるものだった。ピンから逃れた一羽を描くとき、好太郎さんはニヤッと笑ったのだろうか。

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