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若者の成長 静かに繊細に 道内ロケ映画「羊と鋼の森」8日公開

 主に旭川市と近隣町でロケした映画「羊と鋼の森」(橋本光二郎監督)が8日(金)、公開される。新米ピアノ調律師が周囲の人々に支えられながら成長していく青春ストーリーだ。主演の山崎賢人と、十勝管内新得町トムラウシで暮らした体験を基にした原作の小説(2016年文芸春秋刊、同年本屋大賞)を書いた宮下奈都(なつ)に、それぞれの思いを聞いた。(編集委員 土屋孝浩)

 将来の夢を持っていなかった外村(とむら)(山崎)は、偶然、高校でピアノ調律師の板鳥(三浦友和)と出会い、澄んだ音色に魅了される。その音に生まれ故郷と同じ森のにおいを感じたためだ。調律師を志し、専門の学校を終えて、板鳥のもとで修業を始める。なかなか自信を持てず悩みは尽きないが、それでも職場の先輩調律師・柳(鈴木亮平)らに支えられ、少しずつ成長していく―。

 このところ漫画原作の学園ものやアクションものなど、動きの多い役をこなしてきた山崎だが、本作では一転、内気な青年を演じ、静かなシーンが続く。

 「原作、脚本とも描いているのは穏やかで静かな世界。僕も繊細さを大事にしたいと思いながら撮影に臨みました。ただ外村は、これから自分の仕事を頑張っていこうとする若者で、等身大の自分にも近い。自分にとっても響くせりふがたくさんあり、役に入りやすかった。そこは新境地でした」

 共演陣からも刺激を受けた。特にNHKの大河ドラマ「西郷どん」に主演中の鈴木と、親子ほど年が離れた三浦から多くを学んだ。

 「鈴木さんは『普段は現場で一緒になった若い役者がいても先輩感は出さないけど、今回は職場の先輩役だから』と言って、日常会話も(先輩口調)そのままでした。これまで受けたオーディションの経験談なども話してくださいました。(板鳥役の)三浦さんとは、外村に助言してくれるシーンでの『こつこつです』という台詞がすごくて、鳥肌が立ちました。圧倒的な優しさに包み込まれたと感じました」

 旭川と周辺での冬と初夏のロケも印象深いという。「東京に騒音のない場所はほとんどないので、すごく気持ちのいい空間でした。映画の中で板鳥さんが『森の中で育ったのが、おまえの強みだ』と言ってくれるのですが、確かに武器になるなと感じられたのは、すてきな経験でした」

やまざき・けんと 1994年、東京都出身。2010年に俳優デビュー。15年の第39回日本アカデミー賞新人俳優賞。近年の主演作に「ジョジョの奇妙な冒険」「氷菓」など。 ※「崎」の「大」は「立」

トムラウシの暮らし基に執筆■原作者 宮下奈都
「血が通う」幸せな気持ち

 ――映画試写で、小説の世界が豊かに深められていると感じたそうですね。

 「はい。小説が映画になって(新たな)血が通うとはこういうことなのかと幸せな気持ちになりました。例えば主人公の青年外村の祖母は話の流れで背景としてしか書いていなかったのに、存在感が際立っていたし、弟との関係、ピアノを弾く姉妹の葛藤や心理描写などアレンジ部分が、素晴らしいと感じました」

 ――小説の登場人物それぞれのイメージは。

 「うちには高校生の子供がいますが、撮影現場でお会いした山崎賢人さんは、うちの子のクラスメートにいてもおかしくないくらいの控えめな美しさでした。役者さんは自分のオーラを消すこともできるんだと知りました。私の世代のハンサムの代名詞みたいな三浦友和さんも腕のいい調律師さんにしか見えなかった。他の人たちも同じで、俳優さんたちには感謝しかありません」

 ――小説も映画も、自然の静けさや人の五感を大切にした表現が印象的です。

 「静寂、森のにおい、影、ピアノの音。とてもよく表現されていると思いました。味覚についても好きなシーンがあります。外村が、先輩の柳と2人で食堂でおいしそうな定食を食べているのですが、外村は調律の話に夢中で、料理を一度も見ない。ほかに集中しているときは食べても味覚が働かないのでしょう」

 ――エンディングテーマは久石譲作曲、ピアノ演奏は辻井伸行です。

 「言葉で音楽を表現することは難しいと思っていましたが、音楽を音楽そのもので描くことは、もっと勇気のいることだと思います。それがきちんとかなえられていた。そもそも私は辻井さんのファンで、何度もコンサートに行っています。こんな幸せなことはありません。エンディングテーマ以外の挿入曲も素晴らしいと思いました」

 ――新得町トムラウシでの体験が発端でした。

 「トムラウシで感じたこと、そこで生まれたアイデアが小説になり、脚本化され、役者が芝居をして映像化され、音楽も付いて映画になった。これ自体にストーリーがあります。トムラウシで暮らした1年間は、本当に充実していました。トムラウシの方々がこの映画を喜んでくれているのが、すごくうれしいですね」

 みやした・なつ 1967年、福井県出身。作家。2004年に「静かな雨」で文学界新人賞佳作。13年春から1年間、子供の山村留学のため十勝管内新得町トムラウシで暮らした。そこでの体験を基に書いた「羊と鋼の森」で16年本屋大賞。福井市在住。

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