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<セクハラNO! 緊急リポート 財務省前事務次官セクハラ疑惑>上 メディアの現場から声上げる

 「君、立ちたまえ」。全国紙の女性記者(35)は地方都市で支局勤務をしていた20代のころ、支局の歓迎会の2次会が開かれたスナックで、居合わせた地元有力者の男性にあいさつした際、いきなりそう言われた。立つと、次は「回ってみて」と要求された。

 訳が分からず、その場を1周すると、男性は女性の容姿をなめるように見つめ、「キレイな脚だね」とつぶやいた。不快感が押し寄せたが、何も言えなかった。居合わせた上司や同僚の男性たちも怒ってくれる雰囲気ではなかった。

■すり減る自尊心

 「これぐらい乗り越えなくてはネタは取れない。業界で生き残っていけないと自分に言い聞かせた。がんばって取材してネタを取っても社内の男性からは『女の子は得だよね』と言われる。自尊心がすり減る思いを何度もしてきた」。女性はこう振り返る。

 辞任した財務省の福田淳一前事務次官によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ発言疑惑。官僚トップや政治家のセクハラに対する問題意識の希薄さなどが批判される一方、働く女性全体の問題として、セクハラ撲滅を訴える動きが広がっている。

 21、22日に東京都内で開かれた日本新聞労働組合連合(新聞労連)の全国女性集会。全国の新聞社に勤める女性社員約50人から、セクハラの実態を訴える声が相次いで上がった。「マスク越しにキスを迫られた」、「酔った振りをして胸やお尻に触れられた」―。「上司にセクハラ被害を訴えても、笑われて終わりだった」と嘆く声もあった。

 セクハラ被害を受けているのは営業職も同じだ。東日本の地方紙で営業職として働く女性(26)は2年前、クライアントの男性や先輩たちと酒を飲んだ際、男性から胸やお尻を触られた。トイレに行く振りをして席を離れ、その場から逃げた。「一緒に飲んでくれたら、広告を出すよと言われたら断り切れない。私のせいで大事な取引先を失ってしまうと思うと、上司にも言えなかった」

 集会運営メンバーの1人で朝日新聞労組の中塚久美子さん(46)は「メディアで働く女性たちがこれまで心の中に封じ込めていた悔しさや不安に仲間として寄り添い、手を携える必要があると思った。これからジャーナリズムで働きたいと希望する若い人が私たちと同じ目にあわないよう、今ここで歯止めをかけなければならない」と語る。

■社員守る意識を

 財務省前事務次官のセクハラ疑惑を巡っては、女性記者が会話の録音データを週刊誌に渡したことを問題視する声も相次いだ。だが、専門家からは「被害の証明のために録音するのは当然」との指摘や、女性からセクハラ被害を報告されたテレビ朝日の対応を批判する声も上がっている。

 元経済誌の記者でジャーナリストの治部(じぶ)れんげさんは「記者はスクープを取るために、取材先と距離を縮める必要があり、結果的に仕事とプライベートの線引きがあいまいになることがある」などとした上で、「会社はもっと、女性社員を守る意識が必要だ」と強調する。


 新聞労連全国女性集会では最後に、会社に「社内、社外ともにセクハラは断固として許さないという強い決意や、加害者と闘う姿勢を見せてほしい」と求めるアピールを採択した。

 アピールでは「こんな不条理や屈辱は終わりにしよう。仕事にセクハラはいらない。セクハラにNOと言おう」と呼び掛け、最後にこう締めくくった。

 「私たちは1人じゃない」―。

 海外メディアの注目も集めた福田前財務事務次官による女性記者へのセクハラ発言疑惑は、セクハラへの意識や職場のあり方を変える転機になるのか。メディアをはじめ働く女性たちへのセクハラの実態や、今回の問題を機に広がったセクハラ根絶を目指す運動の広がりを追った。(片山由紀が担当し、2回連載します)

■新聞労連女性集会で採択したアピール文(要旨)
「セクハラに我慢するのはもうやめよう」

 権力を傘にした者たちからの、人としての尊厳を傷つけられる行為に我慢するのはやめよう。「私に非があったかもしれない」と自分を責めるのはもうやめよう。

 財務省の福田淳一事務次官のセクハラ疑惑を訴えた仲間をはじめ、これまでも意を決してセクハラを訴え出た仲間に敬意を表したい。

 セクハラは性差別であり、性暴力であり、人権侵害だ。私たちがなくしていかなければならないのは、セクハラ行為と、その加害者や行為を黙認する態度や組織だ。性差を超えて、立ち向かおう。

 仕事にセクハラはいらない。セクハラにNOと言おう。言葉でNOと示そう。私たちは1人じゃない。

■人権侵害、放置しない 生活部キャップ・片山由紀

 政治家の後援会幹部と飲んだ帰りのタクシーで、ずっと手を握られ、「ホテルに行こう」とささやかれたことがある。夫が単身赴任中に、子どもを妊娠した時、役所の幹部職員に飲み会の席で「離れてても、やることやっているんだね」と言われたこともある。

 そんなセクハラは20年間の記者という仕事の中では日常茶飯事で、笑って軽く受け流してきた。記者は、真相を探ったり情報を得るため、時には人目の付かないところで取材先とひっそり会う必要がある仕事だ。セクハラだと騒げば、取材先との関係が崩れ、ネタが取れなくなる―。そう思い続けてきた。

 変わったのは会社の後輩がきっかけだった。重要な取材先から飲み会のたびに体を触られたり、ひわいな言葉を投げかけ続けられた揚げ句、彼女は精神的なダメージを受け、体調を崩した。「もう記者として働けない」。震える声で彼女からそう聞かされた時、私は「わたしのせいだ」と思った。先輩の働き方を見て、後輩が「我慢しなければ」と思い続けてきたとしたら、その責任の一端は私にある。

 そんな中で、今回の問題が起きた。落ち込むとともに怒りが沸いた。もう放置できないと思った。

 セクハラは人権侵害だ。人の尊厳を奪い、傷つける行為だ。こんなことがまかり通る社会を、私たちは次世代に引き継げるだろうか。こんな時代はもう終わりにしなければならない。

 セクハラは言葉であれ接触であれ、相手が「性的な嫌がらせだ」と不快に感じた時点で成立する。今回の問題は、国の事務方トップたる人間がこうした定義を正しく認識せず、セクハラを軽く見たことが根源にある。

 また、被害を受けた女性社員から報告を受けたにもかかわらず、適切な対応を取らなかったテレビ朝日の責任も重い。彼女が第三者に録音データを渡したことが問題になっているが、そもそも会社が彼女を守るために毅然(きぜん)とした態度を取っていれば、第三者への情報提供などなかった。

 これはすべての労働者に通じる問題だ。男女雇用機会均等法で、企業はセクハラを防ぐ手だてを講じることが義務付けられている。社内であれ社外であれ、企業がセクハラと闘う姿勢を示さなければ、労働者は安心して働けない。企業はこのことを肝に銘じるべきだ。

 私たちも変わろう。セクハラにNOと言おう。セクハラは許さないと態度で示そう。もし仮にそれができなくても自分を責めるのはやめよう。あなたは悪くないのだから。一人一人の小さな変化が新しい時代をつくる。そう信じて、私も新たな一歩を踏み出したい。

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