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非常食の備蓄どうする 「気力生み、命つなぐもの」 廃棄しないためには

 巨大地震などの大災害が起きた時に、命の支えとなる非常食。本州の太平洋岸や道東沖で東日本大震災級の大地震が懸念され、自治体のほか一般家庭でも備蓄の必要性が叫ばれるが、味や保管方法に課題があったり賞味期限切れで未使用のまま廃棄されてしまうケースも少なくない。「おいしい非常食」を家庭でつくるための備蓄対策や、賞味期限が迫った非常食を有効活用する自治体の取り組みを紹介する。

■「慣れた味」再現を 常用食材 逐次買い足し

 「一番おいしく感じられるのは、普段から食べ慣れたもの。それをいかに再現できるかを考えながら、食材を備蓄してください」

■最低で1週間分

 東京都内で2月下旬に開かれた災害時の食事について学ぶイベント。学生や主婦ら参加者約10人を前に、昭和女子大現代ビジネス研究所の段谷憲さん(55)が「おいしい非常食」を作るコツを解説した。

 東日本大震災以降、国は大規模災害後の救援の遅れを考慮し、各家庭で水や非常食などを最低1週間分は備蓄することを呼びかけている。しかし、どんな食材をどの程度用意しておけば、1週間分に対応できるのかなどの知識は十分に浸透していないのが実情だ。

 非常食として一般的な乾パンやクラッカーは、すぐに食べ飽きてしまう上、栄養が偏りがちだ。同研究所では2015年から、災害時の非常食の在り方を研究。東日本大震災の被災地でNPOなどが行った食に関する調査を分析し、被災直後から数日間は空腹をほとんど感じることはないが、時間の経過とともに食事に満足感を求める傾向が高まることや、普段の食事に近い温かい食べ物を口にすることで気持ちが落ち着くことに注目した。このため同研究所は「家で食べ慣れた味」を基本に、大災害で水や電気、ガスが使えなくなった場合でも簡単にできる非常食のレシピ、調理技術を研究している。

■こんろやポリ袋

 同研究所が推奨するのが、日ごろ使う食料品を少し多めに買い置きし、これを使いながら逐次補充していく「ローリングストック」法。長期保存が利く食品を食べずに保管するのではなく、日常的に食べて買い足すことを繰り返すため、気がついたら賞味期限が切れていたり必要なものが足りなかったりといった心配がないという。

 このやり方に適した食材として挙げるのは、米やパスタ、小麦粉などだ。また避難生活では温かい食べ物が手に入りにくくなることから、カセットこんろを常備し、ラップ、ポリ袋なども調理用具としてそろえておくことを提案している。

 非常食レシピは、同研究所の研究員と昭和女子大の学生が一緒に開発した。非常食は、炭水化物中心になりがちだが、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養面を考慮。また、限られた水、燃料で長期間の食事を支える災害時の調理のコツも提案している。

 例えば湯を沸かした鍋で米を炊いたり食材をゆでたりする場合、食材をポリ袋に入れることで複数の食材を一緒に調理できるほか、鍋を洗わずに済む。また、パスタは30分ほど水に浸すことで、ゆで時間を3分ほどに短縮できるという。

 これまでに開発したレシピは料理検索サイト「クックパッド」で随時紹介。考案したのは、切り干し大根を使ったお好み焼き、コロッケ、グラタンなど計46品に上る。2月のイベントでは、参加者が「油いらずのオムライス」「甘酒蒸しパン」などの調理を体験した。

■高栄養価を意識

 調理の指導にあたった昭和女子大管理栄養学科3年の平岡由衣さん(21)は「災害時に調理できるものは限られてしまうが、栄養価の高いものを積極的に取り入れるよう心がけた」。段谷さんは「被災地での食事は生きる気力を生み、命をつなぐものでなければならない」と話す。

 家庭でローリングストック法による非常食の備蓄を始めたい人向けのグッズもある。防災意識の向上に取り組むNPO法人「プラス・アーツ」(神戸)などが民間企業と販売する専用ボックスは、計3日分の親子丼などのフリーズドライ食品9食分とパックご飯3食分が入っている。月に1回程度のペースで1食分を食べ、その都度、買い足して補充できるようになっている。

■道内外自治体 期限切れ対策 給食、イベントでも活用

 東日本大震災などの教訓から多くの自治体が非常食の備蓄を増やしているが、クラッカーや乾パンなどの非常食は、おおむね5年程度が賞味期限とされ、その処理は頭の痛い問題だ。毎年出てくる期限切れの非常食を無駄にしないよう、学校給食や地域の防災イベントで有効活用する取り組みなどが行われている。

 「おいしいね。非常食が入っているとは思えないよ」。2月、東京都足立区の梅島小(630人)の児童に笑顔が広がった。給食の献立の一つとして非常食のアルファ米のおかゆにニンジンなどを使った「キャロットスープ」がお目見え。東京の民間団体「食品ロス・リボーンセンター」などが企画し、東京都などから譲り受けたアルファ米を使用した。

■フードバンクも

 同校では昨年12月から今年3月までの計5回、賞味期限が1、2カ月に迫った非常食を使った給食を調理した。本年度からの取り組みで、砕いたクラッカーをパン粉のように使った「鶏肉のクラッカー焼き」などを提供。メニューを考案した同校栄養教諭の宮鍋和子さん(51)は「一手間を加えれば非常食も食べてもらえる。給食で定期的に使用すれば、食品を廃棄しなくても済む」と話す。

 東京都は本年度、約825万食の非常食を備蓄し、このうち約109万食が賞味期限を迎えた。賞味期限が迫る非常食の大半は、防災イベントの参加者や観光施設の来場者に配ったほか、生活に困っている施設や家庭に食品を届ける「フードバンク」活動をする民間団体に譲っている。配りきれない場合には廃棄されており、16年度は約20万食分が処分された。

 道内でも防災イベントの参加者らに配られるのが一般的だ。釧路市は昨年10月と今年1月、市主催の避難訓練などに参加した住民にクラッカーなどを配ったほか、炊き出し訓練の一環としてアルファ米の試食会を開いた。2回のイベントで賞味期限が残り2カ月程度の計約1200食分を配布。同市は「非常食を食べることで住民の防災意識が高まれば」と期待する。

■需要と供給課題

 札幌市水道局は、防災訓練だけでは消費しきれず、昨年10月、フードバンク活動をする民間団体に焼き鳥の缶詰約700食分を無償で提供した。食べられるのに捨てられる「食品ロス」が問題になる中、水道局は「食べられる非常食は、多くの方の役に立ってほしい」として、今後も提供を続ける予定という。

 ただ、フードバンク活動をしている道外の団体の中には既に十分な量の非常食があるとして、自治体からの新たな受け入れを断る例もある。非常食を備蓄する自治体や企業が広がる中、賞味期限切れが迫る非常食が増え、道内でも新規の申し込みを拒まれるケースが出てくる可能性がある。

 イベントなどを通じて市民の防災意識向上を目指す民間団体「防災安全協会」(東京)の水口健社会貢献事業本部長(53)は「自治体が賞味期限が迫る非常食の扱いに困っている一方、非常食を求める個人や団体は多い。需要と供給がかみ合う仕組みを国を交えて考えていくべきだ」と話す。(東京報道 金勝広、中沢弘一)

■昭和女子大現代ビジネス研究所が考案した非常食レシピの例
油いらずのオムライス(1人分)


 ◇材料

 精白米(70グラム)、水(77ミリリットル・米重量の1.1倍が目安)、ケチャップ(大さじ2)、タマネギ8分の1個(約20グラム)、ニンジン4分の1本(約20グラム)、ツナ缶(70グラム)、卵(1個)、塩、こしょう、乾燥パセリ(いずれも適量)


 ◇作り方
《1》ポリ袋に米と水を入れ、袋の口を軽く結んで30分ほどつけ置きする
《2》タマネギ、ニンジンをみじん切りにする
《3》ケチャップ、切ったタマネギ、ニンジン、ツナを《1》に加え、中の空気を抜いて口を結ぶ
《4》《3》を鍋に入れて強火で加熱。沸騰後は中火にして15分加熱する
《5》ポリ袋に卵を割り入れ、塩、こしょうを入れ、よく混ぜる
《6》《3》の袋の加熱時間が残り10分になったら、《5》も鍋に入れる
《7》火を止めた後、《3》の袋は取り出さず、鍋の中で10分ほど蒸らす
《8》《3》を取り出し、《5》を上に載せる

■ローリングストック法で備蓄しておくべき食材と調理道具

 <食材>

 米、パスタ、小麦粉、缶詰(ツナ缶など)、根菜、鶏卵、みそ、好みのお菓子

 

 <調理道具>

 カセットこんろとボンベ、ラップ、ポリ袋、クッキングシート、アルミホイル、ウエットティッシュ、ポリ手袋、蒸し器
※1週間の調理用に水は1人当たり12リットル必要

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