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第1部 発車往来(オーライ)半世紀(中央バス札幌ターミナル)1 春の待合室 紡いだ人生、思いはせて

 3月下旬の深夜、札幌市南区の高校1年吉田しずくさん(16)は知床行きのバスの出発を1人静かに待っていた。「少しは自分で考え、自立できるようになってきたかな」。この1年の札幌での生活を、はにかみながら振り返った。

 北海道中央バス札幌ターミナル(札幌市中央区大通東1)の待合室。知床行きは午後11時15分に出発する。春休みに入った吉田さんは、このバスで、オホーツク管内小清水町の実家に帰省するという。待合室は約100席。正面のテレビは、カーリング女子の世界選手権を中継していた。道内各地に向かう夜行バスを30人ほどが待っていた。

 吉田さんが故郷の中学を卒業したのは昨年春。「田舎育ちなので新しい視点を持ちたい」と札幌進学を決断し、人口5千人足らずの小さな町を夜行バスで離れた。知り合いのいない札幌。不安だらけの旅立ちだった。あれから1年、高校では美術部の副部長になり、ちょっぴり自信もついた。「みんなが任せてくれた」と笑顔を浮かべた。

 故郷と札幌を結ぶバスは1日1本。この夜行だけだ。実家では、両親と姉妹、祖父母、曽祖母の7人が待つ。到着まで約6時間。「家族には学校の話をします」と軽い足取りでバスに乗り込んだ。

 数日後の日中、北海道教育大函館校3年の中村聡一郎さん(21)が函館行きを待っていた。札幌での就職活動のため、北区の実家にしばらく滞在した帰りという。

 就職が決まるまで、片道約6時間のバスでの行き来がまだ続く。バスは往復学割7730円。JR特急の半額程度で済む。金のない学生にとっては頼もしい足だ。

 生まれ育った札幌を離れたこの3年間、函館で出会った東北出身の学生たちの積極性に大きな刺激を受けた。就職は道内志望だが、「転勤もいいなと思うようになりました。いろいろな見方をできる社会人になりたい」と語る。自らの殻を破る力が湧いてきたようだ。「早く内定がほしいな」

 札幌ターミナルはかつて多くの高速バスの「始発駅」として混雑した。しかし徐々にJR札幌駅前始発が増え、一部の夜行を除き、札幌ターミナルは「途中駅」に変わった。そのためか、日中の待合室は、近郊路線を利用する買い物や通院などの年配客が目立ち、どこかゆったりとしている。

 江別市の元高校教員佐々木信三さん(71)はJR江別駅に向かう路線バスに乗ろうとしていた。

 「昨年、車の運転免許を返納したんです。家内から危ないと言われまして」と話す。車がないと不便だ。悩んだ。でも自分でも危ないと感じるようになり、返納を決めた。札幌に来るのは買い物などで月に3、4回。JRなら約20分。バスは郊外経由で約50分かかり、1日10往復しかない。料金もJRの450円に対し、バスは540円と高い。

 それなのになぜバスを? 「昔はJRを使ったけど、退職してからはバスが多い。出発直前まで待合室で座っていられるから楽だし、もう急ぐことはない」

 老いも若きも乗せ、今日もバスは発車する。(学年は取材時)

 札幌には交通や物流の拠点となるターミナルがたくさんある。新シリーズ「ひと まち ターミナル」では、そこを行き交う人々や周辺のまちの息づかいを描く。まずは、1966年の建設からほぼ半世紀を経た中央バス札幌ターミナルから。
(第1部は津野慶、石川泰士が担当し、5回連載します)

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