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3位決定戦 イギリスを追い込んだラストショット 

 【2月24日 カーリング女子3位決定戦 日本対イギリス】
 イギリスが有利な後攻で始まった試合は、両チームとも一歩も譲らず、第8エンドまで後攻が1点を取り合う形で進んだ。第9エンド、LS北見の日本はイギリスのミスから1点スチールに成功。そして、第10エンド。イギリスが勝ちを狙って2点を取りにいくラストショットが失敗しLS北見が1点をスチール、5−3で勝利し、カーリングで初めて日本がオリンピックメダルを獲得した。

 ゲームが動き出した第8エンドから第10エンドのラストショットを中心に、山本研究室のカーリング戦略AI「じりつくん」が分析した。


 残り3エンドで1点差負けの状況で、「じりつくん」はLS北見の勝率を44%と見積もりました。序盤から中盤のように1点ずつを取り合う形で進むと同点で最終エンドを終え、LS北見が不利な先攻でエクストラエンドを戦わなくてはならず、仮に第8エンドでLS北見が得点しても、イギリスは9エンド目をブランクエンド(両チーム0点)として、有利な後攻のまま最終エンドを迎える戦略も選択できるためです。

◾第8エンド 勝率73%か37%かの分かれ目

【第8エンド 先攻・イギリス(赤色)、後攻・日本(黄色) 日本の最終投球】

 第8エンドは、残りエンド数の関係から後攻のLS北見はどうしても2点を取りたい状況でした。「じりつくん」の見積もりでは、2点を取ると勝率は73%、一方1点しか取れないと勝率は37%と、非常に重要なエンドです。

【図1】第8エンド、LS北見の最終投球前
【図1】第8エンド、LS北見の最終投球前

 そんな状況で、LS北見に2点を獲得するチャンスが巡ってきます。LS北見は藤澤選手の最終投球を残す段階で【図1】の局面を迎えます。左側の赤ストーンがナンバー1、ナンバー2は上の黄ストーンと下の赤ストーンで際どいようです。LS北見はメンバーが何度も目測で確認しますが、LS北見の黄ストーンがナンバー2であるという確信はないようでした。この状況で、仮にハウス左のナンバー1ストーン(赤)をはじき出して投げたストーンが残るステイをしても、ハウス下の赤ストーンの方が上の黄ストーンより近ければ1点にしかなりません。

 そこで、LS北見は【図2】のように2点を狙いにいく作戦をとります。ハウス手前にかかっている黄色ストーンの斜めに当てて、その黄色ストーンをハウス内側に、そしてシューターもハウスに入れて2点を狙う作戦です。

【図2】第8エンド、LS北見の最終投球の狙い(2点を取りにいく)
【図2】第8エンド、LS北見の最終投球の狙い(2点を取りにいく)


 「じりつくん」のベストショットもLS北見がとった【図2】の戦略で、この作戦をとったときのLS北見の勝率は63%と見積もりました。しかし実際には、このショットはシューターがハウスに入らず、1点だけを取る形になってしまいました。前述のよう、この時点のLS北見の勝率は37%です。

◾第9エンド 鮮やかショットで勝率55%に

【第9エンド 先攻・日本(黄色)、後攻・イギリス(赤色)】

 3−3の同点で迎えた第9エンド。LS北見(黄色)は不利な先攻です。先ほども書いたように、この時点でのLS北見の勝率は37%ほどしかありません。イギリスは2点を狙いつつ、場合によってはブランクエンドにして、最終エンドを後攻で迎えようとする戦略の両にらみです。

 双方、残り1投ずつになったところで以下【図3】の局面になりました。ハウス内には双方のストーンがないものの、ガードストーンが存在するため、LS北見はスチールを狙うことができます。

【図3】第9エンド、先攻のLS北見の最終投球前
【図3】第9エンド、先攻のLS北見の最終投球前

 ここで、LS北見は【図4左】のようにガードストーンの裏に隠すショットを狙います。【図4右】はこの局面に対する「じりつくん」の評価を表した図(ヒートマップ)で、どの位置を目標にするショットの勝率が高いか、色の違いで表したものです。より鮮やかな赤の部分を目標に投げるショットが良いショットを意味します。ヒートマップの緑色の◯は、最も勝率が高い最善のショットを示しています。

【図4左】第9エンド、LS北見の最終投球。ガードストーンの裏に隠すショットを狙う
【図4右】「じりつくん」の狙い(赤が鮮やかな場所を目標とするショットの評価が高い)
【図4左】第9エンド、LS北見の最終投球。ガードストーンの裏に隠すショットを狙う 【図4右】「じりつくん」の狙い(赤が鮮やかな場所を目標とするショットの評価が高い)

 この局面では、「じりつくん」とLS北見が選択したショットはほぼ同じです。ちなみに、このショットを選択したときの勝率は43%でした。

 LS北見は、このショットを見事に成功させ【図5】のようになりました。この時点で「じりつくん」が見積もるLS北見の勝率は55%まで上がりましたので、いかに見事なショットだったかが分かります。

【図5】第9エンド、LS北見のガードストーンの裏に隠すショットが見事に決まった局面
【図5】第9エンド、LS北見のガードストーンの裏に隠すショットが見事に決まった局面

 LS北見の見事なショットを受け、イギリスは【図6】のようにハウス内の黄ストーンを、上にある赤のガードストーンから狙い、ハウスに残るストーンを作らないブランクエンドを狙います。しかし失敗し、ガードストーンは黄ストーンに当たることなくハウス外に出てしまいます。LS北見が1点をスチールして4−3とし、LS北見がこの試合で初めてのリードを奪いました。

【図6】第9エンド、イギリス最終投球の戦略。ブランクエンドを狙ったが、LS北見のナンバー1ストーン(黄色)を出すことに失敗、LS北見が1点をスチール
【図6】第9エンド、イギリス最終投球の戦略。ブランクエンドを狙ったが、LS北見のナンバー1ストーン(黄色)を出すことに失敗、LS北見が1点をスチール


◾第10エンド 譲らぬ展開 イギリスの勝率26%と22%の差とは

【最終第10エンド 先攻・日本(黄色)、後攻・イギリス(赤色)】

 第9エンドに1点スチールしたことで、最終第10エンド開始時のLS北見の勝率は59%となりました。第10エンドで1点を取らせて同点とし、エクストラエンドは有利な後攻でプレーできるからです。

 最終第10エンドもお互いに譲らない展開が続き、残り1投ずつの局面で【図7左】の局面になりました。

【図7左】第10エンド、先攻のLS北見最終投球前
【図7右】LS北見の狙い
【図7左】第10エンド、先攻のLS北見最終投球前 【図7右】LS北見の狙い

 ここでのLS北見の狙いは【図7右】のように、ナンバー1ストーンを作ることでイギリスに2点を取らせない作戦です。しかし、LS北見のショットは前の黄色のストーンに当たってしまい【図8】のようになりました。狙った位置よりやや手前(上)に止まり、ナンバー1ストーンにはならなかったのです。

【図8】第10エンド、LS北見のショットは狙い通りにナンバー1ストーンをつくることができなかった
【図8】第10エンド、LS北見のショットは狙い通りにナンバー1ストーンをつくることができなかった

 ここでイギリスは、2点を取って勝利できるチャンスと考えたようです。【図9左】のように、LS北見の最終投球で少しだけ狙いより手前に止まってしまったストーンを狙い、LS北見のナンバー2と3(赤い円の中にある黄色)のストーン2個を弾き出す戦略を選びました。

【図9左】第10エンド、イギリスの最終投球の狙い。LS北見(黄色)のストーンを2個弾き出す戦略
【図9右】「じりつくん」の判断
【図9左】第10エンド、イギリスの最終投球の狙い。LS北見(黄色)のストーンを2個弾き出す戦略 【図9右】「じりつくん」の判断

 【図9左】のストーンの動きはかなり複雑ですが、結果的にLS北見のナンバー2と3の2つのストーンを弾き出すことができると考えられます。「じりつくん」はこのショットを選んだときのイギリスの勝率を26%と考えていました。また、仮にスルー(ストーンを関係ないところに投げて現状の配置を確保する)した場合は、イギリスは1点しか取れず同点になり、不利な先攻でエクストラエンドをプレーするため勝率は22%です。

 スルーするよりも2点を狙いにいく方が、勝率は4%高くなっています。しかし、2点を狙いに行くショットとスルーで1点取ることの勝率の差が、どうして4%しかないのでしょうか。実は「じりつくん」は、イギリスが狙ったショットでは、【図9右】のように、イギリス(赤色)のナンバー1ストーンも左上に動いてしまい、イギリスにとって2点目となるナンバー2ストーンとなる可能性が低いと考えていたのです。イギリスが2点を取って勝つ可能性もありますが、LS北見が1点をスチールする可能性もそれなりに高いと判断したのです。

 以上の分析から、イギリスが有利かとも思われた最終投球は、実はかなり苦しい状況であったことが分かります。では「じりつくん」が出したイギリスのベストショット(最善手)はどのようなショットだったのでしょうか。

◾「じりつくん」が発見した衝撃的ショット

 実は、この局面で「じりつくん」は衝撃的なショットを発見していました。【図10】のようにハウスの前方にあるコーナーガードを利用して、斜めからLS北見の黄色のストーンを狙うショットです。イギリスが狙ったショットよりも、より角度をつけて黄色のストーンを狙うことにより、赤のナンバー1ストーンが外に出ていく確率を減らすのです。

【図10】「じりつくん」が出したベストショット。ハウスの前方にあるコーナーガードを利用することで、赤のナンバー1ストーンが外に出ていく確率を減らす
【図10】「じりつくん」が出したベストショット。ハウスの前方にあるコーナーガードを利用することで、赤のナンバー1ストーンが外に出ていく確率を減らす

 コーナーガードに当てるショットは、当てる角度が難しいのですが、もしずれたとしてもハウス中央のLS北見の黄色ストーンに当たらないことが多く、イギリスがそのまま1点を確保できる可能性が高いショットだと言えるでしょう。「じりつくん」は、このショットを選択した場合のイギリスの勝率を50%と見積もっていました。他のショットに比べて、かなり有効なショットであると「じりつくん」は判断していたのです。

 このショットは非常に難易度が高く、実戦で選ぶことはできないかもしれません。しかし、人工知能(AI)が人間の思いつきにくいショットを発見する一つの例になっているかもしれません。

◾カーリングの奥深さを知ること、戦略研究の一助に

 イギリスの最終ショットは狙いより少しずれ薄めに黄色のストーンに当たり、ハウス内のストーンは複雑な動きをした結果、LS北見(黄色)のストーンがハウスの中央に残りナンバー1に、1点をスチールし5−3で勝利しました。

 LS北見の素晴らしいプレイが日本中を興奮の渦に巻き込みました。オリンピックカーリングで日本初の銅メダル獲得、おめでとうございます。そして、感動をありがとうございました。

 これまで、平昌オリンピックのLS北見の試合を中心に、研究室で開発中のカーリングAI「じりつくん」の分析を4回にわたりお届けしました。
 
 記事に掲載している勝率やショット成功率の数字、およびベストショットなどは、コンピューターによるシミュレーションの結果に基づくものであり、アイスの状況変化やスイーピングのある実際のカーリングとは異なる部分も多いと思います。
 
 しかし、具体的な数字が出ることで、カーリングの奥深さや面白さが伝わる可能性もあります。カーリングやその戦略に、少しでも興味をもっていただければうれしく感じます。今後、シミュレーションやショット選択の精度をより上げることで、選手の戦略立案の支援や試合観戦の補助になることを目指しています。

 成果を掲載するにあたって、シミュレーターを開発いただいた電気通信大学の伊藤毅志先生、および北見工業大学の桝井文人先生を代表とする「カーリングを科学する」プロジェクトの皆様に感謝します。


山本雅人(やまもと・まさひと)教授 1968年、札幌出身。札幌旭丘高、北海道大学工学部情報工学科卒。同大学院工学研究科システム情報工学専攻博士後期課程修了。バックギャモン(西洋すごろく)のジャパンオープン、日本選手権などで優勝経験あり。自身もカーリングチーム「Backgammon」でプレーする。

じりつくん 山本研究室(自律系工学研究室)で開発中のカーリング戦略AI。AI同士を戦わせることで、100万の局面を学習している。ある局面について、想定される数万ショットの中から最善手を選ぶ。スイーピングやアイス状況の変化という要素はないものの、期待得点計算やリスク計算などにより、戦略面で実戦の参考になるように開発を目指している。

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