PR
PR

<根室 最東端の酒蔵130年>上 地元の左党に愛されて

 1月18日早朝、根室市内のほとんどのスーパーや酒店に人の列ができた。

 お目当ては生酒「北の勝 搾りたて」。市内唯一の酒蔵碓氷勝三郎(うすいかつさぶろう)商店が、毎年この時期に限定販売する。

■すぐ売り切れ

 新春にふさわしい爽やかな飲み口が好まれ、すぐ売り切れるため「幻の酒」と呼ばれる。今年用意したのは1万7500本。発売日は事前に明らかにされないが、毎年うわさを聞きつけた人たちが集まってくる。

 市内西浜町8のホクレンショップ根室店には約50人が並び、仕入れた50本は午前10時の開店から3分ほどで完売した。最低気温は氷点下3・2度。3時間並んだという市内の周田知良(ともよし)さん(67)は「年の始まりを告げる酒。毎年楽しみにしている。買えてほっとした」と笑顔を見せた。

 碓氷勝三郎商店は1887年(明治20年)9月に創業し、130年の歴史を持つ。初代の碓氷勝三郎(1854~1916年)は、手ごろな価格で地元に酒を提供しようと志した。「清泉(きよいずみ)」「志(し)ら梅(うめ)」の2銘柄は漁師らの人気を呼び、根室から定期船などで北方四島にも運ばれた。

 日本が太平洋戦争に突入した翌年の1942年(昭和17年)に、銘柄を「北の勝」に一本化。国内最東端の酒蔵として現在は「搾りたて」のほか、「大吟醸」などの季節限定酒や、普段飲みの「大海(たいかい)」「鳳凰(ほうおう)」など7種類を販売する。

 特徴的なのが地元での飲まれぶり。88年に5代目店主に就いた碓氷ミナ子さん(74)によると、戦中から昭和40年代にかけては、造った酒の約8割が根室管内で飲まれた。最近は管内の人口が減り、結果として他地域への出荷が増えているが、それでも約半分が地元で消費される。

 市内の老舗酒店しんぱち佐藤商店の小坂井見応(けんのう)社長(64)は「清酒の売り上げの9割は北の勝。ほかの酒を置いても売れない」と話す。市内の飲み屋で北の勝のない店を探すのが難しいほどで、根室の左党になくてはならない相棒だ。

■出荷見送りも

 逸話がある。

 1999年6月。出荷前の北の勝を口にした碓氷さんは「酒にはなっているが、何かが違う」と感じた。醸造の工程に普段と異なる点はない。国税局で、あらためて鑑定してもらって「問題なし」とされたが、瓶詰め前の1万1千本分の出荷を見送った。当時の年間醸造量の約1割に当たる。

 「どうしても納得がいかない味だった。迷いはなかった」。酒造りにまじめに向き合う姿勢が地元での評価をさらに高めた。

 「酒造りで大事なのは気候、温度、造り手の心」。碓氷さんは穏やかに語る。(根室支局の犬飼裕一が担当し、3回連載します)

どうしん電子版のご案内
北海道新聞 購読の申し込みはこちらから
新聞配達スタッフ募集
ページの先頭へ戻る