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<論憲考憲2018>3 届かぬ声 細る護憲派 民意と乖離

 眼下の隅田川を観光船が行き交う。東京の下町、中央区湊の雑居ビル5階に社民党本部はある。政治の中枢・千代田区永田町から地下鉄で4駅。賃料節約のため昨年5月に移転した。

 「寂しさはあります」。2016年参院選で落選し非議員のまま党を率いる吉田忠智党首(61)は漏らす。前身の社会党が1964年に永田町に建てた党本部は近くの坂の名から「三宅坂」と呼ばれ、土井たか子委員長時代は約200人の国会議員が集う護憲政党の象徴だった。老朽化で近くの民間ビルに間借りした時期を経て、ついに永田町を離れるまでの50年余「憲法を守れ」と訴えたが、選挙の敗北や分裂を経て所属国会議員は4人に減った。

■かつては至上命令

 「護憲」は有権者に響かないのか。

 「憲法改正の既成事実をつくることは許されない。憲法調査会でも何でも、前進を阻止しなければならない」(64年3月、参院予算委で社会党の戸叶(とかの)武氏)

 55年体制下で保革対立の一翼を担い、内には左右両派を抱えた社会党で「護憲」は存在意義を保つ至上命令となった。しかし議論さえ拒むかのような姿勢は「異様な制度信仰として有権者の感覚からズレていった」と早稲田大の小原隆治教授(政治学)は指摘する。

 「自衛隊員たちに、君たちは憲法違反かもしれないが、何かあれば命を張ってくれというのはあまりにも無責任だ」。9条への自衛隊明記を掲げる安倍晋三首相は、困難な政治課題に立ち向かう与党、何でも反対の無責任な野党の構図を好んで描く。これが国民に浸透しつつあることは、社民を含む野党各党の支持率の低さが物語る。安倍政権下の改憲に反対する勢力は、ここ数回の選挙で衆参ともに3分の1を下回った。

 ただ、世論は、必ずしも改憲支持が多数派ではない。衆院選直後の昨年11月の共同通信の調査では、安倍改憲に反対50・2%、賛成39・4%。「世論と国会が乖離(かいり)している」。16年夏に解散した若者団体「SEALDs」(シールズ)元メンバーの是恒香琳(これつねかりん)さん(26)は考える。皆で反対した安全保障関連法は成立したが、集団的自衛権は行使できないとされてきた憲法解釈を安倍政権が突如、変えたことに「おかしい」という気持ちは今も消えない。

 憲法との出合いは小3の時。授業中、お調子者の男子が大声で騒ぎ、激高した男性教師に殴られ、蹴られた。指導を超えた暴力。しかし子どもたちの証言は信用されず、教師は不問に付された。おびえた是恒さんは同級生と、教師の「罪」を証明しようと、家にあった六法全書をめくった。

 憲法36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は絶対にこれを禁ずる」。99条「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負う」

 「これだ」と思った。その後も教師が処分されることはなかったが、是恒さんは自信を取り戻した。世の中には「大人」や「教師」や「暴力」より、強い正義があるのだと。憲法は全てのルールの基礎となり、どんな権力者も逆らえない。

 だから、時の首相が憲法を解釈で変えるような振る舞いは許せなかった。その安倍首相が改憲を主導することに是恒さんは「国民を主権者と思っていないのでは」といぶかる。世論調査の「反対」は、そんな声なき声の表れかもしれない。

■「議論する習慣を」

 行き場を失った民意は低投票率となり、民主主義を細らせる。「どうやって民主主義のプロセスの中に組み込んでいくか。これからの日本の政治の大きな課題です」。市民連合@新潟の佐々木寛・共同代表(51)は近著で問題提起した。

 16年、保守王国・新潟の県知事選で野党系候補が勝った「新潟ショック」の立役者。佐々木氏を含む学者や主婦らの「市民連合」が結節点となり、各党と合同で選挙実務を担った。県内にある東京電力柏崎刈羽原発再稼働の是非を争点化したことで、選挙を「自分ごと」と捉える輪が広がった。

 野党系の団体が先月、都内で開いたシンポジウム。勝因を問われた佐々木氏は民意を吸い上げる鍵をこう説いた。「中央の政策が本当に私たちの利益になるのか議論する習慣が大事。そうすれば党派を超える。右とか左とか超えるんです」

 世論の多数が支持する路線が国会では少数派という点で、「憲法」は「原発」と似通う。米国と一体で集団的自衛権を行使できる自衛隊を憲法に明記することは、「命」を張る自衛官のためになるのか。実態に即した議論を国会につなぐ回路が必要だ。(東京報道 西依一憲)


 <ことば>護憲政党 左右両派に分かれていた社会党(現社民党)は1955年10月の党大会で、「憲法擁護・再軍備反対」を基点に統一した。以後、結党時に改憲を掲げた自民と、社会の二大政党を軸に「改憲か護憲か」の対立構造が続いた。現在は自民党と連立与党の公明党、保守系野党の希望の党、日本維新の会などの「改憲勢力」が、衆参両院で改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を有する。安倍政権下の改憲阻止で連携する立憲民主、民進、共産、自由、社民各党のうち、立憲民主、民進両党は綱領で改憲自体は肯定している。自由党の小沢一郎共同代表は改憲論者。改憲反対の「護憲政党」は、社民党のほか共産党とする捉え方が一般的だ。

■9条改正「反対」42%「賛成」30% ネット調査から

 「9条の改正についてどう思いますか」との質問に「反対」42%、「賛成」30%で、反対派が上回った。改憲の是非を問う質問では「変えた方が良い」32%、「変えない方が良い」34%が拮抗(きっこう)しており、平和憲法の根幹をなす9条改正は改憲の中でもハードルがより高いことが裏付けられた。

 安倍晋三首相が改憲の理由の一つに挙げる「現在の憲法はアメリカに押し付けられたものだ」との主張に対しては、「『押しつけ』かどうかは問題ではない」が48%と最多。押し付けだと「思う」と「思わない」はそれぞれ18%だった。憲法を「変えた方が良い」と答えた人の中でも「押しつけかどうかは問題ではない」が52%で、押しつけと「思う」の34%を上回り、改憲派が必ずしも「押しつけ憲法論」を理由にしていないことが浮かび上がった。

 「護憲」「改憲」という言葉のイメージを自由に答えてもらったところ、9条にかかわる記述が多数を占めた。改憲反対派は「改憲という言葉はとても怖いイメージ。護憲は安心できる言葉」(札幌市・77歳女性)などと護憲に平和主義を重ねる人が目立った。改憲賛成派は「改憲で戦争に近いことが起こる可能性が高まることは少し怖いが、護憲では日本が外国から攻められたときに反撃できないのは危ない」(札幌市・18歳男性)などと、安全保障情勢の変化から改憲すべきだとする答えがあった。

 憲法改正を巡っては、地方自治や知る権利の明記なども論点だ。「中身がさまざまなのに(護憲・改憲という)言葉だけが独り歩きしている」(札幌市・49歳女性)として9条以外の議論を求める意見もあった。

 ▽調査の方法 北海道新聞社が北海道新聞情報サービスに委託し、日本リサーチセンターおよび同社提携先のインターネットモニターを対象に昨年12月12~14日に実施した。モニター登録している道内の約37万人の一部に質問を送信し、556人から有効回答を得た段階で集計した。対象者は道内の実際の年齢構成に従って人数を配分した。パソコンやスマートフォンの画面に質問と複数の選択肢を示して選んでもらい、一部質問には自由記述欄を設けた。

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