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<試練の日ロ プーチン大統領来日1年>1 経済協力 大規模事業望むロシア

 ツンドラの地にそびえ立つ3基の風車が、ゆっくりと回る。11月下旬、ロシア・カムチャツカ半島の中部ウスチカムチャツク村。2015年末に日本企業がロシアに設置した初めての風力発電施設だ。

 高さ41・5メートル。断熱性を高め、羽根に雪が付着しない寒冷地仕様で、氷点下40度の厳しい環境にも対応できる。「ここは風況もよく、年間を通して順調に動いてますよ」。地元電力会社で働くパベル・ペツーニンさん(39)が笑顔を見せた。

 人口約4千人の村は隣町と140キロ、半島の中心都市ペトロパブロフスクカムチャツキーとは740キロ離れた「陸の孤島」。電力は旧ソ連時代からディーゼル発電頼みで、燃料をハバロフスク地方からタンカーで運ぶため輸送費がかさむ。

 気候は厳しく、村内にはフランス製風車も1基あるが「故障が多くほとんど動いていない」(電力会社関係者)という。

 北方領土交渉を巡るロシアとの隔たりが大きい中、経済協力を通じて環境整備を進める―。そんな戦略を描く日本政府は風力発電施設を「成功例」とするが、それはまだ数少ない。

 旧ソ連時代の面影を残すウスチカムチャツク村で、近代的な風力発電施設はひときわ目立つ。施設の規模は極東最大で出力は1基あたり300キロワット。「村のシンボル」と語るパベル・コシュカリョフ村長(59)は、10月の村立記念式典で風車の写真をプリントしたカップを来賓に配った。

 村はサケ・マス漁業が唯一の産業で、日露戦争後は漁業権を獲得した日本の缶詰工場も操業した。人口は20年前の3分の1に減ったが、漁期の夏場は各地から数千人の出稼ぎ労働者が6カ所の水産加工場に集まり、電力需要は4倍に増える。老朽化が進むディーゼル発電機を補い、省エネ効果のある風車は地域の新たな支えだ。風力による発電量は年約6%程度だが、稼働開始2年弱で5200万円相当の燃料を節約できたといい、村内で暮らす看護師の女性(65)は「日本の協力は大歓迎。風車がもっと増えてほしい」と語った。

 風車は寒冷地での実証実験を目的に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、総事業費12億円をかけて三井物産や駒井ハルテック(東京)などに設置を委託した。現在は地方政府に引き渡され、国営電力大手ルスギドロ傘下の地元企業が運営する。

 今回は日本側の無償譲渡だが、三井物産などは同村に4基目の風車を商業ベースで設置する方向でルスギドロと協議中。技術などを実証できたことで「他地域での展開につながる」(駒井ハルテック)とさらなる販路拡大に期待する。

 安倍晋三首相は昨年、8項目の経済協力プランをロシア側に提案。風力発電はその一つとして注目され、NEDOは昨年12月のプーチン大統領来日に合わせ、極東サハ共和国でも実証実験を検討すると発表した。

 8項目の提案は経済協力をてこに、プーチン氏から北方領土問題で譲歩を引き出す狙いがある。省エネ、医療、都市環境整備など、従来より幅広い分野を盛り込んだのは「規模が小さくても、国民生活に近く、日本の協力が目に見えやすい」(官邸筋)との思惑からだ。プーチン氏の来日以降、検討開始に合意した民間の協力は100件に及び、首都モスクワや地方都市では、交通渋滞緩和や下水道整備に日本の技術を導入する動きも始まっている。

 だが、ロシアビジネスにノウハウを持つ日本企業は少なく、協力案件のうち最終的な契約に至ったのはまだ2割程度。さらに経産省幹部は「それなりに協力は進んでいるが、プーチン氏が求めるシンボリックな事業がない」と、日ロ両政府の思惑のずれを指摘する。

 関係筋によると、プーチン政権は昨年末以降、数千億円規模に上るサハリンと北海道を結ぶ送電網やガスパイプライン建設の検討を繰り返し要求。国内経済の停滞が続く中、より国民に成果をアピールしやすい大規模な投資を求める姿勢を強めている。

 世耕弘成ロシア経済協力分野担当相は18日から極東ウラジオストクを訪れ、投資拡大を巡り協議する。訪ロは今年6回目の異例のハイペースだが大手商社幹部は言う。「ロシア側には『ほとんど進んでない』と不満がたまってきている」

 日ロ両国が経済協力の拡大や北方四島での共同経済活動の検討で合意したプーチン大統領の来日から15日で1年。日ロ協力や領土問題の行方を展望する。(ユジノサハリンスク支局の則定隆史、東京報道の細川伸哉、平畑功一、根室支局の犬飼裕一、モスクワ支局の小林宏彰が担当し、4回連載します)

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