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<書評>底辺への競争

山田昌弘著

下流転落におびえる「総中流」
評 佐藤直樹(九州工業大名誉教授)

 本書いわく、教えている学生たちに「大学を卒業して、何になりたいか」と尋ねると、「正社員」と答える学生が一人ならず出てくるそうだ。この話、笑えないところがコワイのだが、なんだかイヤな時代である。

 じつは、昨今の激烈な「就活」も、「婚活」も、「保(育)活(動)」も、本書のいう「底辺への競争」を象徴するものである。すなわちこれは、1990年代後半からのグローバル化と格差の拡大によって生じたのだが、標準的なライフコースとしての現在の中流の生活をなんとか維持し、下流に転落しないための、絶望的な「後ろ向きの競争」を示しているという。

 とりわけ、著者の造語である20年前の「パラサイト・シングル」は、いまやアラフォーの「中年パラサイト・シングル」となり、この「後ろ向きの競争」という過酷な現実に直面している。つまり、親元にパラサイトするのも、少子化も、未婚化も、下流に落ちないためのリスク回避の行動であった。これまでパラサイトは、一種のセーフティーネットの役割を果たしてきたのだが、いよいよ失業や親の介護・死亡などの生活上の困難に直面し、下流への転落のリスクに晒(さら)されているというのだ。

 また、日本は先進国の中で、大量の人が中流からの下降移動を経験する「最初」の国になるだろうと、著者はいう。なぜなら、他の多くの先進国はもともと階級社会であって、生活水準の異なる階級の間で分断が固定化しているが、日本はかつて「一億総中流」を達成したために、それからこぼれ落ちる大量落下が始まっているからだ。

 では、なぜこの「底辺への競争」が、日本ではこれほどまで激烈になるのか? 理由は、「自分が中流であること、人並みに生活していることが重要で、それができないということに対する『恥』の意識が強い」からである。私の考えでは、この意識は日本特有の「世間」によるもので、その意味では、本書が摘出した問題の根は、極めて深いといわなければならない。(朝日新書 778円)

<略歴>
やまだ・まさひろ 1957年、東京都生まれ。中央大教授。専門は家族社会学

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