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敗者への思い

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将棋のプロ棋士は投了の際、それまで崩していた姿勢を正し「負けました」と言う。声がかすれないよう、お茶を飲んでから宣言する人も多い。将棋の羽生善治棋聖が永世七冠を達成した竜王戦第5局もそうだった▼渡辺明竜王はしばらく前から目を閉じたり、宙を見上げたりしていた。気持ちを整理していたのだろうか。一口お茶を飲み、静かに投了を告げた。勝負の世界は非情だ。自ら負けを認めねばならない将棋も例外ではないが、タイトル戦には別の非情さもあることを痛感した▼投了後、報道陣は敗者の周囲に集まる。だがそれは、向かいに座る勝者の写真を撮り、話を聞くためなのだ。フラッシュが立て続けにたかれ、質問が飛び交う中、敗者は席を立てない。ずっと屈辱をかみしめ続ける▼永世竜王、棋王の資格を持つ渡辺さん自身、かつて何度も相手に同じ経験をさせてきた。しかし今回は羽生さんの永世七冠がかかった大一番。世間の注目度もかつてなく高かっただけに、悔しさは想像に余りある▼きのうの朝刊各紙には、羽生さんの偉業をたたえる記事が躍った。渡辺さんのコメントはほとんどなかった。厳しい世界である▼羽生さんが打ち立てた金字塔に、多くの人が快哉(かいさい)を叫んだことだろう。けれど、渡辺さんが失冠を乗り越え、将棋界最高峰のこの舞台に再び戻ってきてほしいと願う将棋ファンもきっと少なくないはずだ。2017・12・7

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