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<第2部 激流の中で 11・17敗戦記>1 金融改革で「標的」に 株価下落、広がる懸念 96年11月~97年1月

 1997年11月17日の経営破綻まで、行内外で何が起きていたのか。北海道拓殖銀行(拓銀)の幹部が共有していた約3千枚の内部文書や関係者の証言をもとに、1年間の「敗戦記」を報告する。

 拓銀破綻1年前の96年11月21日、和歌山県の第二地方銀行、阪和銀行が経営破綻した。過大な不良債権により、大蔵省が経営継続は困難と判断。戦後初の業務停止命令による銀行破綻だった。三塚博蔵相は「破綻処理は先送りしない」との大臣談話を発表した。

 その10日前、橋本龍太郎首相は「日本版金融ビッグバン」推進を、関係閣僚に指示した。規制緩和や市場原理の活用など大胆な改革で、東京を2001年までに国際金融市場に飛躍させることを目指すものだ。

 金融機関同士が自由競争するビッグバン時代に向けた程よいアピール―。大蔵省が阪和銀行破綻をそう考えていたとの見方がある。だが、当時は大型金融破綻への備えも安全網もなく、市場は敏感に反応した。北海道新聞が入手した拓銀の内部文書に、行内回覧した外資系証券会社のリポートがとじられている。

 「金融機関の破綻処理はまだ続く」

 「大手行の中にも破綻するところが出てくる」

 この一節には下線が引かれ、衝撃を示す「!」のマークが書き込まれていた。世間では第2の阪和銀行を探す空気が漂い始めていた。その標的の一つとみられていたのが拓銀だった。

 日本版金融ビッグバン、そして阪和銀行の強制的な経営破綻―。1996年11月に大蔵省が相次いで打ち出した施策は、金融業界に激震を呼んだ。

 影響は直ちに株価に表れた。市場は、国による「護送船団行政」の終わりと「淘汰(とうた)の時代」の始まりを実感し、金融株全体が「売り」にさらされた。そんな中、特に目立ったのが都市銀行の中で最も安値の北海道拓殖銀行(拓銀)株だった。

 それまで270円前後だった株価は11月21日の阪和銀行破綻の後、目に見えて下落。12月中旬には220円前後と、1カ月ほどで2割近くも値下がりした。

 拓銀の内部文書の中に、「当行株価問題」と題した12月19日付の打ち合わせ資料がある。株価下落の構造的要因を「不良債権問題を主因とする当行への信用の揺らぎ」と分析。株の新たな持ち合い先獲得などを対策案として挙げている。

 その余白に、閲覧した行員が手書きで次のように記述している。

 「対策が遅い」

 「低株価は経営者が大株主へ土下座すべき問題」

 「200円を切ると営業基盤そのものが崩れる」

 懸念は的中し、拓銀株は97年1月9日にあっさり200円を割り込み、終値は197円。信用不安の払拭(ふっしょく)と行内の沈静化のため、この日、企画部など3部長が連名で本支店全てに対して出した通達文書にはこうある。

 「株主、お取引先からのご照会に対しては以下のような内容を参考にして対応をお願いします」

 「最近の株価推移は橋本首相の『日本版ビッグバン』の発言を受けたもの」

 「当行の経営上、株価下落につながるような新たな事実が発生した訳ではありません」

 拓銀をはじめ金融界に突然の逆風をもたらした金融ビッグバンは、そもそもなぜあの時期に打ち出されたのか。「あまりに唐突だった。理解できない」と拓銀OB。当局の真意に対する疑念はいまも根強い。

 当時、橋本首相の秘書官だった江田憲司衆院議員は「96年秋の衆院選後に『橋本改革』を打ち出した。当初ビッグバンは入っておらず、大蔵省の主導で後から加わった」と証言する。

 改革の柱の一つは、省庁再編だった。大蔵省は住宅金融専門会社(住専)問題などの責任を問われ、与党は財政と金融の分離について議論を進めていた。「省の存在感を示して組織を維持・防衛するため、大蔵省はビッグバンを政治課題に潜り込ませ、首相も乗せられた」。江田氏はそう指摘した上で「金融機関の体力の実態が分からないまま実行し、破綻を招いた。タイミングを間違った」と振り返る。

 そんな国の「思惑」を知るよしもなく、そのころの拓銀行内では株価下落の「次なるリスク」に対する懸念が広がっていた。内部文書には次のような記述がある。

 「現在のところ、預金に目立ったダメージは出ていないものの、このまま推移すると、場合によってはかなり危機的な事態もありえないとは言えない」

 同じ文書では「気になる事例」を紹介している。

 「いくつかの営業店で預金の刈り込み(獲得)不成立」

 「お客様サービス室等への顧客からの苦情増大」

 金融ビッグバンが始まりを告げた破局へのカウントダウン。株価と預金量が追いかけ合って下落する、急な下りのらせん階段の縁に拓銀は立っていた。

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