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<「維持困難路線」公表1年>5 速さより「文化的価値」 いすみ鉄道社長・鳥塚亮氏(57)

 道内を走る鉄道路線の多くが建設当初の目的を終えているのではないか。炭鉱を結んでいた幌内線や歌志内線など支線の多くも廃線になった。今は高速バスやマイカーなど競争相手も多く、根室線や釧網線といった路線も今まで通りでは立ちゆかなくなる。そういった意味ではJR北海道の路線見直しも理解できる。

 約140年に及ぶ北海道の鉄道の歴史の中で、JRは速く走ることを追求してきた。それでも乗客は減っている。速く走るという「文明的価値」が限界に来ているためだ。ただ、JRは公的色彩が強い企業。需要のないところに需要をつくるなら、鉄道の優位性や楽しさといった「価値」を創造しなければいけない。

 新たな価値をどう生み出すか。速く走ることにこだわらず、「文化的価値」をつくることが必要だ。速度に象徴される文明は物差し一つで計れるが、文化は違う。モナリザやビーナスといった絵画を良いという人もいれば、そうでない人もいる。廃止する前に価値の分かる人に向けて文化的な需要をつくるべきだ。

 社長就任後、アニメの世界と沿線の風景が似ていたので「ムーミン」を列車内外にあしらった。コース料理が食べられるレストラン列車も走らせた。これが文化的価値。うちでできたのだから、もっと景色が良くて素晴らしい列車が走るJRにできないはずがない。

 たとえば1日1往復しかない札沼線の新十津川駅なら、駅前に全3室のホテルを造って地元が運営したらいい。「列車がないから泊まって」と地産地消の料理でもてなすだけで全国区になる。北海道は温泉がある。ホームに露天風呂を作り「列車が通過する際は立ち上がらないこと」なんて札を立てれば話題になる。

 国の縛りの中で難しい面もあるのだろうが、安全・正確を追求してきたJRにとって価値の創造はおそらく不得意な分野。自分たちでできないなら、誰かにやってもらえばいい。今までのやり方でうまくいかないなら、やり方を変えるしかない。従来の上下分離とは反対に、基金のあるJRが下(施設保有)、行政や住民が上(車両運行)を担う方式がいいと思う。

 自治体や道にも責任がある。これまで走っていることが当たり前であまりに関与しなさすぎた。鉄道を残したいなら、上を地元が責任持ってやるべきだ。自分たちの望む時間帯に列車を運行し、欲しいサービスもできる。スポンサーを募って観光列車を走らせることもできる。JRの負担軽減になり、地域も活性化できて鉄道も守られる。

 いすみ鉄道沿線の人たちは資金的な支援をしてくれたし、何でもやらせてくれた。第三セクターという側面もあったかもしれないが、何より覚悟があった。それに応えようと私も地域のためにはどうすればいいかという考え方でやってきた。今まで敷居を高くして駄目になったのだから、敷居を低くすればいいだけ。鉄道さえ残っていればなんでもできるのだから。(聞き手・土屋航)


 <ことば>いすみ鉄道 千葉県南部のいすみ市と大多喜町を結ぶ26.8キロで運行する。旧国鉄の赤字路線で廃止対象だった木原線をJRから引き継ぎ、千葉県や大多喜町、いすみ市などが株主の第三セクターとして1988年に開業した。経営立て直しに向け、2009年に鳥塚氏が社長に就任。沿線を「日本のムーミン谷」と呼び、キャラクターをあしらった黄色いムーミン列車や食事を楽しめるグルメ列車を運行。オリジナルの土産物の開発と売店の設置、訓練費700万円の自己負担を条件にした運転士訓練生の募集も話題を集めた。

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