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<俳句賞>候補句集と選評

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候補句集

(句集名の五十音順)
「風の手紙」 岩﨑俊
「告白」 瀬戸優理子
「飛べない鶴」 前原絢子
「楢一樹」 山岸正俊
「氷絃」 辰巳奈優美
「忘恩」 すずき春雪


 清水道子 身体感覚で紡ぐ


 候補句集から、辰巳奈優美さんの「氷絃」と岩﨑俊さんの「風の手紙」を推した。「氷絃」は<春愁や琥珀(こはく)のなかに虫ねむり>など確かな客観写生による端正な句柄に好感を持った。合評では、日常詠における「句の切れ」という点で評価が分かれ、入賞に至らなかった。「風の手紙」の作者は60歳を過ぎてから俳句を始められており、柔らかな感性の持ち主。<冬芒とは凪ぐ海の息遣ひ>をはじめ題材の範囲が広く、句の鮮度が良かった。佳作に選ばれた瀬戸優理子さんの「告白」は、私の俳句観とは異なるが、作者の身体感覚から紡ぎ出された感性の多彩な表出は評価されるべきだと思い、同意した。<おおかみの駆け抜けた風うるう秒>は素直に共感できた。


 辻脇系一 やわらかな感性


 今回は甲乙つけ難い作品がそろった。その中から私は<夏の浜すとんと脱げる服を着て><シリウスを心臓として生まれけり>など感覚的、情動的な新鮮さとやわらかな感性が認められる瀬戸さんの「告白」、<種浸す映る浮雲蓋(ふた)にして>など確かな風土感と腰の据わった自営農の今を書き続けている山岸さんの「楢一樹」、観察眼と安定した定形感から岩﨑さんの「風の手紙」の3点を推した。

 合評では6点の句集について意見を交わし、全体として平均的で抜けた作品が少ないとの印象も述べた上で、最終的に「告白」を推して佳作賞とすることにした。この句集は、全5章のうち3章あたりで、日常的な概念の消化がいま一つとなった点が惜しまれた。


 永野照子 転換の妙に興趣


 最終選考で、まず瀬戸優理子さん「告白」を推した。<シリウスを心臓として生まれけり>などの句は、作者の身辺や日常の哀歓を感覚的にみずみずしく詠いあげた。言語観豊かに類型を遠ざけ、予定調和を許さない転換の妙に興趣があったが、反面、より独自であろうとすることの難しさも感じられた。

 岩﨑俊さん「風の手紙」は<鳴きかはしゐて托卵(たくらん)の時鳥>など今日的な即興性と遠い所で、四季折々とそこに息づく命の尊さを書きあげた。一方で、日常吟が少なく俳句観が見えてこないもどかしさが残った。前原絢子さん「飛べない鶴」は、写実に徹し映像化に重点を置いた佳作。辰巳奈優美さんの「氷絃」も滋味あふれる一集だった。


 源鬼彦 詩の境地広げた


 瀬戸優理子さんの「告白」は<夏シャツの乳房で伸ばす畳み皺><さよならの形にへこむ夏帽子>など体験をみずみずしい感覚で詠む。しかも実在感がある。最終章の<日記買う同じ袋に明日のパン>は着実に詩の境地を広げているとうかがえた佳句。

 岩﨑俊さんの「風の手紙」は<水底の落葉はそこにあるがまま>など写生の手法を土台として、生きとし生ける物の息遣いをも詠う。山岸正俊さんの「楢一樹」は<田仕舞の軍手に残る握り癖>など自らの生業である農業の辛酸などを、健康的な眼でつづる。

 辰巳奈優美さん、すずき春雪さんの句集は、ともに具体的な題材の動きから人間の息遣いや心の動きにまで言及していて共感した。

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