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減災のすすめ 「防災」だけでは危険、復旧・復興の時間短縮 関西大・河田特任教授に聞く

 最近、防災対策のあり方を見直す動きが相次いでいる。政府は南海トラフなどの巨大地震について「予知は困難」との立場に転換。道内でも昨年の台風被害などを機に、災害は完全には防ぎ切れないと考えて被害を減らそうとする「減災」の取り組みが注目されている。なぜ「減災」なのか。災害史に詳しい関西大学社会安全研究センター長の河田惠昭特任教授に聞いた。

 ――災害時に被害をゼロに抑えようとするような「防災」よりも、被害を少なくする「減災」や、被害が出ることを前提に復旧を早める「縮災」を重視すべきだと提唱されています。なぜですか。

 「例えば昨年、台風が北海道に大雨を降らせたように、最近は『想定外』のことばかり起きている。温暖化で雨の降り方が変わってきて、どこの川も治水計画が破綻しています。そんな状況だからこそ、『災害は必ず起こるもの』と考え、発生時の被害を減らす対策が求められている。発生後には、公共事業で復興が進んでも被災者が生活を再建できなければ意味がない。そのためには復旧・復興の時間をできるだけ短縮しなければいけません」

 「一切被害を出さないという前提で『防災』を進めると、対策をすればするほど安全だと思ってしまう。この欠点が福島の原発事故で出てしまった。万一、災害が起きても、どう対処したら大事故に至らないで済むか、という訓練を日頃からやっておけば、事態の悪化を食い止められたかもしれません。災害や事故は必ず起きる、いくら防潮堤を造ってもそれを超える津波が来ると覚悟し、次の手も考えておかないと」

 ――「減災」を進めるためには、どのようなことが大切ですか。

 「2005年に米国のニューオーリンズなどを襲ったハリケーンのカトリーナでは1800人以上が亡くなりました。同市当局は大型のハリケーンが来れば湖の防潮堤や防水壁が持たないとわかっていたけれど、補強に2千億円かかるため、実施できなかった。それは仕方ないが、大型ハリケーンが来た場合の危険を公表していなかった。これが大きな問題でした。現状ではどんな危険があるか、事前に情報を住民に伝えておけば被害は減らせます」

 「行政ができることは限りがある。住民の側もそう認識し、自己責任の原則で災害時にどう行動するかを考えておかないと。非常時に大切なのは自助・共助。避難する際も手ぶらで逃げず、少量でも食べ物や水を持っていく。そんな自覚や心構えが必要です」

 ――日本の場合、ほとんどの行政機関で防災の専門部署がなく、巨大災害が起きた時の指揮系統や縦割り組織同士の連携も不安視されています。

 「米国でハリケーンなどの自然災害に対応する連邦緊急事態管理庁(FEMA)は職員が4千人、他に非常勤の職員が約4千人。非常時には8千人が災害対応に当たります。一方、日本は内閣府に防災担当の職員が100人ほどいるだけ。これでは南海トラフや首都直下の巨大地震に十分に対応できるはずもありません」

 「史料などから調べると7世紀以降、日本では千人以上の犠牲者を出す自然災害が少なくとも99回起きている(グラフ参照)。およそ15年に1度です。明治以降に限れば26回で、6年に1度。これほどの災害大国なのです。明治時代の日清戦争の戦死者は1万3千人ですが、その翌年の明治三陸津波では2万2千人が亡くなっている。過去の戦争と同じように過去の災害もしっかり学校で教え、災害に対応できる人材を育てなくてはいけません」

■洪水も想定した治水対策を 下流域の氾濫を予防・軽減、二重構造で浸水食い止め

 道内でも「減災」を目指す取り組みに関心が高まっている。昨年8月の連続台風による水害の被害を受けて土木学会の災害調査団がまとめた報告では、今後は「河川はあふれることもあるということを念頭に置いた治水計画を考えるべきである」と提言。「越水や破堤であふれでた洪水流を安全にコントロールし、いかに河川に戻すかということが重要」としている。

 予測が難しい短時間強雨が道内でも急増する中で、洪水の防止を一義的に目指した従来の治水対策から転換を求める提言と言えそう。水があふれた際に被害を減らすための先人の知恵として「霞堤(かすみてい)」や「二線堤(にせんてい)」を例に挙げている。

 どのようなものか。

 霞堤は戦国時代から用いられてきた治水方法で、堤防の途中に一部、不連続な開口部を設置。川の増水時はこの開口部から水があふれることで下流域の氾濫を予防・軽減できる。また、上流域で破堤しても洪水流が開口部から元の川に戻りやすく、氾濫区域の拡大防止が期待される。

 「開口部周辺は水につかることがありうるので、土地利用は制限されますが、増水時には一時的にここに水がたまり、下流に流れる水量を減らせます」と河川防災が専門の北見工大の渡辺康玄(やすはる)教授。

 堤防が不連続になることから、ある程度の勾配がある急流にしか設置できないが、道内では十勝管内の札内川やオホーツク管内の渚滑川などに既に設置されている。帯広開発建設部の帯広河川事務所によると、札内川の霞堤は計7カ所。昨年の台風時には一部の開口部に水がたまった痕跡が確認されたという。

 二線堤は「控え堤」とも呼ばれる二重構造の堤防。川の本堤に沿って盛り土をした道路などを二番目の堤防として設けることで、本堤を越水しても住宅地などへの浸水を食い止める。

 「豪雨時に堤防が切れたとしても、下流に二線堤を整備してあれば、減災の効果が期待できる」と渡辺教授。道内でも本州並みの雨や水害が増えており、「従来よりも広い面的な治水を考えていく必要がある」と警戒を呼びかけている。(編集委員・森川潔)

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