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<書評>世界からバナナがなくなるまえに

ロブ・ダン著

多様性が阻む農作物の危機
評 東嶋和子(科学ジャーナリスト)

 資本を集中投下し、遺伝的に均質な作物を大農場で栽培する「工業型農業」や「モノカルチャー」が、作物を危機的な状況に追い込んでいる。

 遺伝子組み換え作物が米国で栽培され始めた頃、取材におもむいた現地でしばしば聞いた組み換え反対論である。

 組み換え技術の開発企業や農家の話を聞き、技術や作物の安全性を理解した私には、先の主張は、大規模なアグリビジネス企業への反感に思えた。

 本書も「アグリビジネス企業の支配」に警鐘を鳴らすものである。ただし、さすがは進化生物学者、かつ卓越した科学の語り手。「アグリビジネス企業によって作り出された遺伝子組み換え作物の最大の問題は、健康に対するものでも、環境に対するものでもなく、害虫、病原菌、気候変動に随時対処する私たちの能力に関するものである」と、喝破する。

 すなわち、「より少数の作物に依存し」、「同じ遺伝子によって守られる」結果、危機に際して「アグリビジネス企業の対応能力に依存せざるを得なくなる」ことが危ういのだと。

 その論拠として、バナナ、ジャガイモ、キャッサバ、カカオ、コムギ、天然ゴムがどのように危機に陥った、または陥っているかが具体的に語られる。数人で病原体をこっそり持ち込んだ「農業テロ」により、ブラジルのカカオ産業が崩壊した話には、戦慄(せんりつ)した。

 多様性を守ろうと、命がけで種子の収集や保存に奮闘した科学者たちの物語には、頭が下がった。日本の農学者、稲塚権次郎によるコムギへの貢献の逸話もあり、誇らしい。

 2050年には、世界の食糧需要が倍増する一方、地球温暖化のせいで熱帯低地では作物の栽培がさらに困難になるという。

 ゲノム編集で病害抵抗性をもつ品種ができるとしても、伝統品種や近縁野生種、作物が相互依存する生物とその環境を保護する必要性は増すばかりだ、という言葉に大きくうなずいた。

(高橋洋訳/青土社 3024円)

<略歴>
米ノースカロライナ州立大教授。専門はエコロジーと進化論

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