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<書評>日本の夜の公共圏 スナック研究序説

谷口功一、スナック研究会著

1杯でつなぐ地域の絆
評 横尾和博(文芸評論家)

 帯文には、「スナック」についての本邦初の学術的研究、との刺激的な言葉が踊る。裏町愛好家の評者はとびついた。同書は11人の学者、編集者による論を掲載する。そもそも定義から始まるのだが、読み進むうちに濃い内容に酔ってきた。

 まずはスナックの起源だ。1964年の東京五輪の前後、今でいうカフェバーのようなイメージで軽食もとれ、若者向けにできたのが端緒らしい。そしてカラオケが導入された80年代に現在の形が定着し、全盛期を迎える。ママがひとりで切り盛りし、顔なじみが集まり歌をうたい愚痴を言い合う。今も全国には10万軒以上が店を開く。軒数が多いのは東京都で次が北海道。また人口比で多いのは宮崎県、2位が青森県だ。つまり第1次産業が元気な地域、そして夜に集まる場が少ない地方である。地域コミュニティーがしっかりと機能し、家族団欒(だんらん)的な緩い絆が形成されているからでもある。大都会ではカラオケルーム、キャバクラなど競争が激しく淘汰(とうた)されやすい。圧巻は「二次会の思想」で、晴れの場としての一次会から本音で話し合うことができるスナックに流れるメンタリティを検証する。スナックの果たす役割は「社会人としての嗜(たしな)み、人間関係のさばき」と、芸人でスナック愛好家の玉袋筋太郎は指摘する。江戸時代、本居宣長が「物のあはれを知る」といい、他人の感情の機微に共感することを宣長は酒席から学んだ、との論には驚愕(きょうがく)した。

 本書から見えてくるのは夜の公共の場、コミュニケーションや集いとしてのスナックである。昼の公共の場は公民館、図書館、公園などだが、対して地域を下支えしているスポットという機能だ。

 1人暮らし高齢者は増加している。すべての人が飲酒するわけではないが、地域の緩い繋(つな)がりがあるスナック文化は、これから時代に合った新しい「結び」という社会的役割が生まれる。本書は実に奥が深い。水割りをもう1杯飲みたくなった。

(白水社 2052円)

<略歴>
スナック研究会は大学教授らで構成している。代表は首都大学東京教授の谷口功一

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