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チベット問題 (2008/04/05)

 中国チベット自治区と周辺で三月に発生、拡大したチベット民族の大規模な暴動は、多民族国家・中国の抱える少数民族問題の深刻さを浮き彫りにした。背景には、チベットをめぐる歴史的経緯と、中国による統治の現状に対するチベット民族の不満がある。(佐々木学)

【中国統治】 武力制圧し実効支配

 中国によるチベット直接統治は、中国共産党の率いる中華人民共和国政府が一九五〇年にチベットの領有を宣言し、翌五一年に人民解放軍がチベットに侵攻、占領したのが始まりとされる。

 しかし、それ以前の清朝や中華民国も「チベットは中国の一部」と見なしていた。ただ、当時は植民地総督と言える「駐蔵大臣」を派遣しての間接統治で、ダライ・ラマを頂点とする政教一致の体制は続いた。対外的な独立は果たせずともチベット政府が自治を担い、中国による支配は緩やかなものだった。

 そうした、国の中に別の国があるようなあいまいな地位を共産党は認めず、チベットの社会主義化を進めた。これに対するチベット民族の抵抗が各地で激化。毛沢東は「反乱が激しくなるほど“解放”は早まる」と暴動をあおった。

 その結果が五九年三月のチベット動乱につながり、ダライ・ラマ十四世はインドへ亡命した。チベット亡命政府は、動乱で八万七千人のチベット民族が解放軍に殺害されたと主張している。

 六五年にチベット自治区が成立。“自治”とは名ばかりで、要職は漢民族の党官僚が占める支配体制が完成した。

【経済政策】 漢民族が大量移住 所得格差の溝拡大

 中国政府は「チベット人民を農奴制の旧社会から解放した」とチベット支配を正当化している。しかし、チベット民族の独立を求める運動は、十六人が死亡した八九年のラサ暴動など、たびたび起きている。

 このため、政府は積極的な投資でチベットの経済成長を促し、独立運動を抑える政策を進めてきた。三百三十億元(約四千八百億円)をかけて二〇〇六年にラサまで開通した青蔵鉄道は、その象徴だ。鉄道開通は開発投資や観光客増加につながり、〇七年の経済成長率は14%に達した。

 だが、その恩恵を受けているのは主に漢民族の企業で、八割が農牧業を営むチベット民族とは無縁と言われる。チベットの所得水準は中国で最も豊かな上海の三、四割にとどまり、漢民族との格差は広がっている。

 鉄道開通は、隣接する四川省などから漢民族の大量移住をもたらした。ラサは四川料理店が多く、中国の他の地方都市と変わらない街並みだ。チベットの「中国化」に危機感を抱くチベット民族は少なくない。

 チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世を中国政府が「分裂主義者」と敵視し、仏教徒のチベット民族にダライ・ラマ批判を強要することも、心の中でダライ・ラマを敬う僧侶や信者にはつらいことだ。

 中国の憲法は信仰の自由を表向き認めている。だが、もともと「宗教はアヘン」と考える共産党は、党が宗教を管理する立場を堅持し、党を超越するダライ・ラマのような宗教的権威を認めていない。

 これも、チベット民族が受けている精神的抑圧の一つといえる。

【政府】 自治区独立への動き 他地域への拡大懸念

 ダライ・ラマ十四世は現在、チベットの独立ではなく「高度な自治」を求めていると主張する。それでも、中国政府は「祖国分裂の一歩」として認めない姿勢を貫く。

 さらに中国政府が恐れるのは、分離独立を求める他の少数民族地域に暴動が飛び火することだ。

 香港紙によると、新疆ウイグル自治区ホータンで三月、ウイグル民族の女性を中心とした約千人のデモが起きた。ウイグル民族の若い女性を強制連行して低賃金で働かせている実態への抗議という。三月にはウイグル民族女性による航空機爆破テロ未遂事件の発生も当局が明らかにした。

 世界の目が集まる北京五輪を控え、少数民族の独立運動が活発化することに、中国政府は神経をとがらせている。

<メモ>

 チベット民族 ヒマラヤ山脈の北に広がる標高2000メートル以上のチベット高原を故郷とする。固有の言語と文字を持ち、チベット仏教に根ざした高い文化水準を誇る。中国国内の人口は542万人。居住地域はチベット自治区のほか、青海省の全域と四川、甘粛、雲南各省の一部にも広がる。

 中国支配から逃れた亡命チベット人はインド、ネパール、欧米諸国などに15万人ほどいる。チベット動乱で亡命したダライ・ラマ14世は1960年、インド北部ダラムサラに亡命政府を樹立。国際社会にチベットの自由回復を訴えている。

<主な経緯>
1950年   
中国共産党政府がチベットの領有を宣言
  51年
中国人民解放軍がチベット侵攻
  59年 3月
チベット動乱でダライ・ラマ14世がインドへ亡命
  65年 9月
チベット自治区成立
  87年10月
ラサで独立要求デモ、6人死亡
  89年 3月
ラサ暴動で16人死亡。ラサに戒厳令
10月
ダライ・ラマ14世がノーベル平和賞受賞
2002−07年
チベット亡命政府と中国政府が計7回の対話
  06年 7月
青蔵鉄道が開通
  07年10月
米議会がダライ・ラマ14世に勲章授与
  08年 3月
10日、ラサで仏教僧らが抗議デモ
14日、ラサの抗議活動が拡大。店舗や車両に放火

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