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「聴こえぬ」耳 身障者手帳問題の闇

<下>見抜けぬ行政 実態より「書類」優先 (2008/03/05)

 その診療所は、春浅い芦別市中心部にある。ここに芦別、赤平両市の元炭鉱マンたちが集まりだしたのは十年ほど前。当時、待合室はサロンのようににぎわった。

 「手帳、取れたよ」

 「簡単なのかい」

 「ああ、札幌に良い先生がいるからね。取れるの、早いし」

 「紹介してよ、なあ」

 輪の中で、身障者手帳の取得を勧めていたのは、住友赤平炭鉱の下請け会社の元労組幹部(67)。問題の札幌の耳鼻咽喉(いんこう)科医(73)へ「患者」を送り出した仲介者の一人だ。

 元労組幹部は二〇〇〇年、「社会保障制度を有効に活用する」をうたい文句に「障害者交友会」を結成。身障者手帳や労災の申請を扱うこの組織の代表となり、会員の炭鉱マンらから成功報酬などを得ていたという。

「障害者ビジネス」

 元労組幹部がつくり上げた集金システム。「あれは障害者ビジネス以外の何物でもない」と、芦別の手帳申請者。二級の手帳と労災の認定で報酬計数十万円を支払ったという中空知の元炭鉱マンは「甘い言葉を信じてしまった」と後悔し、すでに手帳を返還した。

 障害者ビジネスを可能にしたのは、炭鉱仲間のつながりの強さに加え、一部に残る「依存体質」を指摘する声もある。

 炭鉱事情に詳しい芦別市内の男性は、「炭鉱は、家賃も水道も風呂もみんな会社持ち。『もらえるものは皆でもらう』というヤマ独特の互助精神のゆがみが根本にある」と証言する。

 こうした組織的であけすけな行為を、行政は見抜けなかったのか。

 「もっと早くに手を付けられた事案。批判は当然」と、ある市の福祉担当職員は悔やむ。

 手帳は、申請者側が居住する市町村に申請書や医師の診断書・意見書などを提出。それを道内十四カ所にある道の保健福祉事務所や、札幌市などが調べ、交付の可否を判断する。

重い腰ようやく

 空知管内の複数の自治体の職員は、二〇〇〇年ごろから、問題の医師がかかわった手帳所持者の多さと、症状の乖離(かいり)に気づき、道に対して注意を喚起していたという。しかし、道が交付を保留にしたのは、「耳が聞こえるのに、身障者手帳を持っている人がいる」という通報をきっかけにした〇四年十二月。この医師を指定医としている札幌市が対応を始めたのはさらに三年後の昨年十月だった。

 「必要な書類がそろい、診断書などに医師の署名や判があり、必要項目が明記されていれば、交付を認めざるを得ない」(札幌市幹部)

 そこにあるのは、滝川市の夫婦らによる生活保護費詐欺事件と同様、実態より「書類」優先の硬直した行政体質だ。

 事態を受け、道は札幌市などとの情報交換の会議を開いたり、申請者の障害に疑義がある場合、道に文書で通知するよう求める方針を決め、行政側も重い腰を上げ始めた。

 聴覚障害の手帳を持つ人は昨年度末、全道で約二万九千人。本当の障害で苦しむ人たちに、きちんとした保護が行き届くためにも、真相の解明と再発防止が急務だろう。(報道本部の梶山征広と宇野一征が担当しました)

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