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現代かわら版

【出所後の知的障害者支援の現状は?】上.負の連鎖 (2009/07/30)

長崎県の「南高愛隣会」の施設でくつろぐ女性。日中は弁当配達の仕事や、重度の障害者の世話もするなど社会復帰の道を着実に歩んでいる

  

 厚生労働省が2006年、知的障害かその疑いのある全国15刑務所の受刑者410人を対象に行った調査では、犯罪の動機で最も多かったのは「困窮・生活苦」で36.8%だった。罪名の最多は窃盗(43.4%)で、詐欺(6.8%)、放火(6.3%)と続いた。

福祉と無縁 社会と断絶

 「累犯障害者」。生活苦や社会に適応できないなどの理由で犯罪を繰り返す知的障害者のことだ。大半の人に福祉の手は届かず、刑務所が福祉施設の代わりになってしまうことがある。出所後、頼る家族もなく、孤立を深め、再び犯罪に走る負の連鎖。国はそうした人たちの社会復帰支援の体制づくりに着手したが、それは、まだほんの第一歩だ。支援のモデル事業に3年前から取り組む長崎県の施設を訪ね、行き場のない知的障害者の現実を取材した。(宇佐美裕次)

 「3度のご飯を食べられる。くよくよしなくていいし、不安はなくなった」。長崎県雲仙市の社会福祉法人「南高(なんこう)愛隣会」の施設。中度の知的障害がある女性(59)が笑顔を見せた。

 6畳ほどの自室には、テレビやちゃぶ台、ぬいぐるみ。施設は雲仙岳の山すそにあり、窓の下には有明海が見渡せる。夜はあたたかい布団で寝られる。「ここに来られてよかった」。質素ながらも「普通の生活」を過ごす女性は言った。だが、それを手に入れたのは、4回目の刑務所生活の後だった。

長崎などにセンター 救いの手、ようやく

 知的障害者の再犯をどう防ぐか。この問題に国が制度をつくって動きだしたのはこの7月からだ。

 中心となるのは、各都道府県が設置する「地域生活定着支援センター」。具体的な役割は、出所した知的障害者の福祉施設へのあっせんや手続きの代行、福祉サービスの手配など。相談員が施設や刑務所、保護観察所と連携して知的障害者を支える。設置した都道府県には、国が年間運営費の1700万円を補助する。

 長崎県では2006年度から南高愛隣会が中心となりモデル事業を開始。女性は支援対象者の1人で、07年5月に受け入れられた。

 女性が初めて刑務所に入ったのは47歳の時。路上生活者だった。コンビニエンスストアなどの商店で賞味期限切れの弁当やパンの耳をもらい食いつないだ。路上での暮らしには危険がつきまとう。女性と気付かれないよう、男性の格好をしていた。

 雨の日は雑居ビルの軒先で一夜を明かす。「食べ物がなくて大変だった。3日間は水だけで我慢できる。でも、4日目になると、どうしても手が出てしまった」。拾った預金通帳から現金を引き出そうとして捕まった。刑に服した後も、暖をとるため、ごみや他人の車庫に放火するなど、罪を重ねた。

身内からも見放され

 転落のきっかけは離婚だ。故郷の大分県で中学を卒業後、大阪で就職。パチンコ店や旅館で働き、22歳で結婚した。しかし、朝まで酒を飲み、ゲームセンターで遊び明かす日々を送った。「帰宅しても夫は出勤後だし、愛想つかされてしまった」。大分県に戻ったが、身内には受け入れてもらえず、住む家もなかった。

 女性の知能指数(IQ)は41。知的障害の目安とされるIQ69以下だが、会話の受け答えはでき、障害に気付く人は少ない。女性自身、支援対象者に選ばれて、初めて自分の障害を知った。本来、受けることができた福祉サービスを素通りし、何度も罪を犯しては刑務所に入り、社会から断絶した。こうした負のスパイラルから抜け出せない人は少なくない。

 法務省の矯正統計年報によると、07年度の新受刑者は3万450人。このうちIQ69以下は6720人。さらに知能が低いなどの「テスト不能」者も1605人いた。刑務所に入る4人に1人が知的障害の可能性がある計算だ。

 厚生労働省が06年、知的障害かその疑いのある全国15刑務所の受刑者410人を対象に行った調査では、福祉サービスを受けるのに必要な「療育手帳」を所持していたのは、26人(6%)しかいなかった。

 一方、このうちの7割に当たる再犯者の平均服役回数は6.75回。前回の出所時に仮釈放が認められたのは20%で、全出所者では50%超が仮釈放されているのと比較すると少ない。仮釈放は身元引受先があるのが条件だが、服役中の知的障害者の大半は身寄りがなく、福祉と無縁の人生を送っている実態が浮かぶ。厚労省は「刑罰を科すだけではなく、福祉で立ち直れる人は多い」とみる。

 ただ、福祉への橋渡し役として期待されている定着支援センターの開設は進んでいない。国は09年度中の設置を求めているが、「ノウハウがない」などの理由で動きは鈍く、7月までに設置したのは長崎県のほか、山口県と静岡県だけ。ほかに6府県が補助申請をしているが、まだ開設されていない。

 道内でも設置場所、時期ともに決まっていないのが現状だ。道内には保護観察所が4カ所、刑務所は6カ所ある。国は各都道府県に1カ所のセンター設置を示しているが、道の担当者はこう言う。

 「面積が広い道内で1カ所で対応できるのか課題もある。地域事情を考え、運用できる体制を検討中だ」(福祉援護課)

 出所後の知的障害者に社会が手を差し伸べる具体的な取り組み。道内では、まだ見えてこない。


社会福祉法人「南高愛隣会」 1977年、長崎県雲仙市に設立。同県内を中心に、知的障害者の生活訓練や職業訓練の施設のほか、グループホームなど約50事業所を運営し、約1500人が利用している。刑務所を出た知的障害者の社会復帰にも力を入れ、地域生活定着支援センター設立に向けた厚生労働省の研究班「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」(2006〜08年度)で、同法人の田島良昭理事長が研究代表者を務め、モデル事業で計8人の出所者を受け入れた。

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