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福祉の闇 聴覚からじん肺へ

<下>大分の先例 解明 各機関連携が鍵 (2008/06/22)

 一通の匿名の投書が手元にある。

 「六十歳以上のほとんどが職業病」「ジワジワと死に至る忌まわしい病気になりたくて仕方のない人がいる」

 「労災患者」たちの実態を告発するこの投書が、ある労災補償不正受給事件摘発の契機となった。

 大分県南部が「労災ショック」に揺れたのは二〇〇一、〇二年。振動病患者に対する疑惑が浮上し、大分労働局が〇一年九月、対策本部を設置して調査に乗り出した。

 その結果、職歴を偽って休業補償など総額約三千九百万円をだまし取ったとして、大分県警が患者団体役員ら計七人を詐欺容疑で摘発。患者四十五人が補償の返還命令や不支給決定を受けた。

 大分の事件と道内のじん肺労災疑惑は、奇妙に似ている。

 大分の患者の多くは、青函トンネル工事など全国各地で活躍した優秀な出稼ぎ土木作業員だった。日本の高度成長を担った「豊後土工(ぶんごどっこ)」たちの姿は、国のエネルギー政策を支えた道内の元炭鉱マンたちの姿と重なる。

 「職場環境が似ており、振動病とじん肺は職業病の中でも表裏の関係」。ある専門家は共通点を語る。

 大分では申請をまとめるあっせんグループが受給者から百万−三百万円の手数料を得ていたという。道内でも、患者と申請を代行する札幌の社会保険労務士(66)をつなぐ仲介役が存在し、受給者から数十万円の報酬を得ていた疑いが出ている。

県警など参加

 「県南最大の闇」。そう呼ばれた大分県の労災事件はなぜ、明るみに出たのか。

 大分労働局の対策本部には当初から、大分県警など関係機関が加わっていた。横の連携を密にした全国初の体制が、大規模な不正摘発の原動力となった。

 一方の道内。一連の福祉不正発覚のきっかけとなった聴覚障害問題で、札幌市の上田文雄市長は札幌の耳鼻咽喉(いんこう)科医や社労士らを刑事告発する方針を示した。道警も基礎的な情報収集を始めている。

 「犯罪に加担するわけにはいかない」。じん肺疑惑でも三年前、患者らの診断書と肺のエックス線写真の症状の違いの大きさに憤った専門医たちが、北海道労働局の担当者に詰め寄ったことが、異例の鑑別診断(再検査)につながった。

 ただ、各機関が連携して不正を解明する本格的な動きは今のところ見られない。「大分の対応は、北海道の疑惑を解明する際のモデルケース」。事件を知る関係者が断言する。

制度にも限界

 じん肺疑惑では、労災制度の限界や欠陥も浮かび上がった。

 合併症の続発性気管支炎の診断を左右する喀痰(かくたん)に偽装の疑いも出ている。外来患者の喀痰約九千七百例を調査した結果、四割以上が検査に適さない「不良痰」だったとの研究もあり、正確に診断するため入院させて検査する病院も出始めた。

 複数の専門家は、完治するはずの合併症が治らず、死亡時まで年間数百万円の補償を得る患者が多数いる実情を疑問視する一方、現行制度では合併症がないなどの理由で補償を受けられない中程度の患者に対する救済措置の必要性を訴える。

 中央じん肺診査医の木村清延・北海道中央労災病院院長は「労災制度の根幹を守るためにも、今回の疑惑の解明は不可欠だ」と強調する。

 司法機関も加わって実態を明らかにし、うみを出し切る。そして、不備がある制度を再構築する。それが、公正な福祉の姿を取り戻す鍵になる。

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